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第百七部 灰色の旗へ、青いインクを叩きつける話 ② 東門外を捨て、北の羊毛倉庫へ移った一団

 ヴィクトルたちは、東門外の廃粉挽き小屋を捨て、さらに北の古い羊毛倉庫へ移っていた。


 ミハイルは熱を出しながらも生きている。


 イーゴルは肋骨を固定され、紙を見るたびに怒りで血圧を上げ、アンナに叱られている。


 オルヴァンは片目の腫れが引かないまま、灰旗の封蝋片を鼻先まで近づけて睨んでいた。


「粗悪だ」


 彼は言った。


「封蝋が?」


 ヴィクトルが尋ねる。


「混ぜ物が多い。安い油脂と灰を混ぜている。見た目だけ重くしている」


「分かるのか」


「匂いで分かる」


 ニーナが少し引いた。


「封蝋の匂いまで?」


「職人を何だと思っている」


「面倒な人たち」


「正しい」


 オルヴァンは怒らなかった。


 イーゴルが命令書を読み直し、机を叩く。


「この配車番号は軍需局のものではない。国家保安局の臨時番号だ。だが、馬は軍の飼い馬を使っている」


「つまり?」


 レオンが問う。


「軍は知らないことになっているが、軍の資産は使われた」


「責任を押し付け合える形ですね」


 ヴィクトルが言う。


「サロメらしい」


「そこを逆に使う」


 レオンは鹿鳴橋で得た紙片を置いた。


 第九位。


 監察官を国境証人として再配置。


 ヴィクトルの目が細くなる。


「これは大きい」


「刷れるか」


「刷れます。ただし、そのまま出せば偽造だと言われる」


「ではどうする」


「三枚を並べる」


 ヴィクトルは机に紙を置いた。


 一枚目。


 灰倉院で奪った正式命令書。


 二枚目。


 北の伝令から奪った偽報告書。


 三枚目。


 白翼が拾った第九位の紙片。


「結論をこちらから言いすぎない。読んだ者が自分で気付く形にします」


「なぜ」


「人は、教えられた真実より、自分で見つけた矛盾を信じます」


 ミハイルが壁にもたれたまま言う。


「見出しは?」


 ヴィクトルが考えるより先に、ミハイルが掠れた声で続けた。


「監察官カミラ・パヴェルを誰が動かしたのか」


「悪くない」


「下に小さく、灰旗第九位の紙片を添える」


「喉を温存してください」


「印刷の話は別だ」


 ニーナが薬を差し出す。


「飲んだら話していい」


「それは脅迫か」


「取引」


「青いインクも堕ちたな」


「私は青いインクじゃない」


「死なせない係か」


「そう」


 ミハイルは諦めて薬を飲み、顔をしかめた。


「この薬、革命より苦い」


「比較対象が物騒」


 ヴィクトルは印刷工へ指示を出した。


「紙は薄く。字は大きく。三枚の写しを一面へ。見出しは短く」


「何部?」


「残っている紙全部」


「また全部ですか」


「また全部です」


 印刷工たちが動き始めた。


 活字が並ぶ音。


 インクを伸ばす音。


 紙が重なる音。


 羊毛倉庫の中に、小さな戦場の音が満ちていく。


 レオンはその音を聞きながら、剣を壁へ立てかけた。


 今日は剣ではない。


 紙で殴る日だ。



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