↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

497/565

第九十七部 五日で、一人の女を国家より先に見つける話 ③ 三つに分けられた作戦

 作戦は三つに分けられた。


 ニーナは、青いインクとつながる薬種商の手伝いとして医療倉庫へ入る。


 苦根と柳皮の量、包帯の幅、温布の枚数から、カミラが一人で移送されるのか、ほかの拘束者もいるのかを確認する。


 ガレスは御者と馬を見る。


 荷箱の交換地点を追い、返却された空箱から移送施設周辺の情報を読む。


 ヴィクトルは五か所へ送る証言書と、カミラの医療記録の複写を準備する。


 レオンは証言を書く。


 剣を振るうより遅く、敵を斬った手応えもなく、紙一枚を埋めるたびに自分の過去を差し出す仕事だった。


「明日の朝までに二通」


 ヴィクトルが言う。


「五通では」


「同じ内容を五回書く必要はありません。原稿を二通作れば、こちらで組み替えます」


「なぜ二通」


「一通は事実だけ。もう一通は、あなたの身元を明かした場合に使う」


「最初から全部書けばいい」


「自分の名前を出す文章は、後で足せるものではありません」


 レオンは筆を置いた。


「カミラへ、何か送れないか」


「薬へ手紙を入れるのは危険です」


 ヴィクトルが答える。


「一言だけでも」


「施設側が見つければ、医師と配給係が処刑される」


「符丁なら」


「彼女が理解できても、保安局も理解する可能性があります」


 レオンは黙った。


 以前なら、それでも何かを忍ばせようとしただろう。


 自分がここにいると伝えたかった。


 待てと。


 生きろと。


 迎えに行くと。


 だが、カミラが外へ出した医療記録は、自分の存在を知らせるための紙ではない。


 国家を動かし、記録を残し、拘束場所へ道を作るための紙だ。


 そこへ感情を混ぜれば、作った道を自分で壊す。


「分かった」


 レオンは言った。


「何も入れない」


 ヴィクトルが僅かに目を細める。


「本当に?」


「疑うな」


「疑う理由が多すぎる」


「だから先に言った」


 ニーナが小さく笑った。


「少し成長したね」


「年上の男に言う言葉ではない」


「患者には言う」


「俺はまだ患者か」


「右肩を上げて」


 レオンが上げようとし、途中で顔を歪める。


「患者だね」


「卑怯だ」


「診察」


 ガレスが立ち上がり、外套を羽織った。


「俺は御者を見てくる」


「今から?」


「倉庫の御者は、朝に仕事があるほど前夜に酒を飲む。何を運ぶか知らなくても、行き先の道くらいは口へ出す」


「一人で行くのか」


 レオンが尋ねた。


「ああ」


「戻る時刻は」


「鐘が二つ鳴る頃」


「過ぎたら」


「探しに来るな。印刷所の場所が割れる」


「それでは規則に反する」


「誰の規則だ」


 ニーナが指を折る。


「一人で行かない。痛みを隠さない。患者を置いていかない。余計なことを言わない」


「俺は患者ではない」


「頬の傷は」


「古傷だ」


「心は?」


「診療範囲外だ」


 ガレスは扉へ向かった。


 出る直前、振り返らずに言う。


「鐘二つを過ぎても戻らなければ、ヴィクトルへ知らせろ。探すかどうかは三人で決めろ」


 レオンは一瞬だけ黙り、頷いた。


「分かった」


「気持ち悪いな」


「信用しろと言ったのはお前だ」


「少しずつと言った」


「面倒な男だ」


「お互い様だ」


 扉が閉まる。


 レオンは再び筆を取った。


 五日。


 カミラが東部へ移されるまで、あと五日しかない。


 しかし彼らが数えるべきなのは、救出までの日数ではなかった。


 カミラを国家が自由に消せなくなるまでの日数だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。