第九十七部 五日で、一人の女を国家より先に見つける話 ③ 三つに分けられた作戦
作戦は三つに分けられた。
ニーナは、青いインクとつながる薬種商の手伝いとして医療倉庫へ入る。
苦根と柳皮の量、包帯の幅、温布の枚数から、カミラが一人で移送されるのか、ほかの拘束者もいるのかを確認する。
ガレスは御者と馬を見る。
荷箱の交換地点を追い、返却された空箱から移送施設周辺の情報を読む。
ヴィクトルは五か所へ送る証言書と、カミラの医療記録の複写を準備する。
レオンは証言を書く。
剣を振るうより遅く、敵を斬った手応えもなく、紙一枚を埋めるたびに自分の過去を差し出す仕事だった。
「明日の朝までに二通」
ヴィクトルが言う。
「五通では」
「同じ内容を五回書く必要はありません。原稿を二通作れば、こちらで組み替えます」
「なぜ二通」
「一通は事実だけ。もう一通は、あなたの身元を明かした場合に使う」
「最初から全部書けばいい」
「自分の名前を出す文章は、後で足せるものではありません」
レオンは筆を置いた。
「カミラへ、何か送れないか」
「薬へ手紙を入れるのは危険です」
ヴィクトルが答える。
「一言だけでも」
「施設側が見つければ、医師と配給係が処刑される」
「符丁なら」
「彼女が理解できても、保安局も理解する可能性があります」
レオンは黙った。
以前なら、それでも何かを忍ばせようとしただろう。
自分がここにいると伝えたかった。
待てと。
生きろと。
迎えに行くと。
だが、カミラが外へ出した医療記録は、自分の存在を知らせるための紙ではない。
国家を動かし、記録を残し、拘束場所へ道を作るための紙だ。
そこへ感情を混ぜれば、作った道を自分で壊す。
「分かった」
レオンは言った。
「何も入れない」
ヴィクトルが僅かに目を細める。
「本当に?」
「疑うな」
「疑う理由が多すぎる」
「だから先に言った」
ニーナが小さく笑った。
「少し成長したね」
「年上の男に言う言葉ではない」
「患者には言う」
「俺はまだ患者か」
「右肩を上げて」
レオンが上げようとし、途中で顔を歪める。
「患者だね」
「卑怯だ」
「診察」
ガレスが立ち上がり、外套を羽織った。
「俺は御者を見てくる」
「今から?」
「倉庫の御者は、朝に仕事があるほど前夜に酒を飲む。何を運ぶか知らなくても、行き先の道くらいは口へ出す」
「一人で行くのか」
レオンが尋ねた。
「ああ」
「戻る時刻は」
「鐘が二つ鳴る頃」
「過ぎたら」
「探しに来るな。印刷所の場所が割れる」
「それでは規則に反する」
「誰の規則だ」
ニーナが指を折る。
「一人で行かない。痛みを隠さない。患者を置いていかない。余計なことを言わない」
「俺は患者ではない」
「頬の傷は」
「古傷だ」
「心は?」
「診療範囲外だ」
ガレスは扉へ向かった。
出る直前、振り返らずに言う。
「鐘二つを過ぎても戻らなければ、ヴィクトルへ知らせろ。探すかどうかは三人で決めろ」
レオンは一瞬だけ黙り、頷いた。
「分かった」
「気持ち悪いな」
「信用しろと言ったのはお前だ」
「少しずつと言った」
「面倒な男だ」
「お互い様だ」
扉が閉まる。
レオンは再び筆を取った。
五日。
カミラが東部へ移されるまで、あと五日しかない。
しかし彼らが数えるべきなのは、救出までの日数ではなかった。
カミラを国家が自由に消せなくなるまでの日数だった。




