第九十六部 私は、今日は誰の囚人なのか ② 別々の扉から出ていった四人の役人
取調室から連れ出されたあと、四人の役人も別々の扉から出ていった。
最初に軍保安局。
次に党倫理委員会。
監察院の副監察官は、カミラの健康診断を要求する書類を書くため残り、国家保安局の女は机の灰色の印を回収した。
全員が去ったあと、取調室の奥にある小さな記録窓が開いた。
薄暗い観察室から、一人の女が出てくる。
灰色の長衣。
党章も軍章もない。
年齢は三十代半ばほどに見えたが、白く整った顔からは疲れも緊張も読み取れない。
女は四つの印章が置かれていた跡を指でなぞった。
「上手ですね」
国家保安局の女が、まだ扉の近くに立っていた。
「何がです」
「四つの組織へ、それぞれ別の恐怖を与えた」
「私は何もしていません」
「なら、彼女は自分で勝手に踊っていると?」
「カミラ・パヴェルは、監察官ですから」
灰衣の女は笑った。
「革命国家は、監察官を作るべきではありませんね」
「なぜです」
「正しい革命を信じる者ほど、革命政府の嘘を許せなくなる」
「彼女を殺しますか」
「まだです」
「東部へ送れば、軍が」
「軍は殺したがる。監察院は守った形を欲しがる。党は思想上の勝利を欲しがり、保安局は情報を欲しがる」
女は空になった椅子を見る。
「一人の女を巡って四つの組織が争う。よい状態です」
「よい?」
「組織は、敵より隣の組織を恐れ始めた時に最も使いやすくなる」
国家保安局の女は、声を低くした。
「ザクセルの襲撃は、予定どおりですか」
「予定以上です」
「民間人が十一人死亡した」
「十一人で、イタリカは革命を語り、ザクセルは非常事態を宣言する。安いものです」
「あなたは、革命派を支援しているのですか」
灰衣の女は、少しだけ首を傾けた。
「革命派も支援しています」
「も?」
「ザクセルの秘密警察にも、急進派の名簿を渡しました」
国家保安局の女が息を止める。
「何のために」
「革命を起こす者と、革命を恐れる者を同時に強くするためです」
「それでは、穏健派が」
「最初に死ぬでしょう」
女は穏やかに答えた。
「中間に立つ者が消えれば、残る者は戦うしかない」
彼女は机の下から、カミラの偽自白書を取り出した。
「この文章は、もう少し直した方がよいですね。本人に下手だと言われました」
「冗談を言っている場合では」
「大切ですよ。偽物は、本人が読んでも自分らしいと思うほどでなければならない」
女は偽の署名へ指を置いた。
「次は、個人的な感情をもう少し上手に使いましょう」
「レオン王子ですか」
「亡国の王子は、革命派にも保守派にも便利です。革命派は帝国への抵抗の象徴にできる。保守派は国外の扇動者にできる。帝国は反乱の旗と呼び、王国は保護すべき王族と呼ぶでしょう」
「本人が否定すれば」
「本人の言葉が届く前に、国が名前を使えばよい」
灰衣の女は自白書を折り畳む。
その指には、薄い灰のような粉が付着していた。
「灰は、旗より先に風へ乗るものです」
国家保安局の女は、それ以上尋ねなかった。
彼女が部屋を出たあと、灰衣の女――贖罪の使徒、第九位サロメ・ヴァルガは、空の椅子へ向かって小さく告げた。
「五日間、せいぜい国家同士を疑わせてください、監察官」
その声には怒りも憎悪もない。
人間を人間として見ない者だけが持つ、静かな楽しさがあった。




