第七十八部 白い羽根と白い枝は、同じ河へ向かう話 ③ 白石河港へ向かうかどうかの議会
森議会は、午前のうちに招集された。
白石河港へ向かうか。
白羽を持つレイラを森の外へ出すか。
閉じた河道を再び開くか。
議題は三つだが、どれも一つの問題へつながっている。
「行かせるべきではない」
最初に反対したのはガルムだった。
「帝国側か、人攫いかは分からぬ。だが、相手はレイラの確保を目的にしている」
「同意する」
ドルンも続ける。
「白羽が必要なら、ここへ置いておけばよい」
「置いていけません」
レイラが言った。
「なぜ」
「白い羽根だけを持っていっても、森は声を聞かない可能性があります」
「試したのか」
「いいえ」
「なら」
「羽根は、私の名を聞きました」
森の門で。
レイラ・ヴァン・リュカリオン。
そう名乗った時に、白い羽根は初めて光った。
「羽根だけではなく、私が必要なのだと思います」
「だからこそ出せない」
ガルムの声は固い。
「相手が欲しいものを、すべて持っていくことになる」
「では、残れば」
レイラは、フィアの包帯から出てきた紙を卓へ置いた。
「町を燃やすと書かれています」
「脅しだ」
「脅しだから、無視してよいのですか」
「従えば、次も同じ手を使う」
「分かっています」
「本当に?」
レイラは、すぐには答えなかった。
人質。
脅し。
要求。
セルノが道を開けた理由。
一度従えば、次も誰かを使われる。
「分かろうとしています」
いつもの答えだが、今回はそれだけで終わらせなかった。
「私は、言われた場所へ一人で行くつもりはありません。白い羽根を渡すつもりも、自分を交換するつもりもありません」
「なら、何をする」
「こちらから、白石河港を調べます」
「罠だぞ」
「はい」
「分かって入るのか」
「罠だと分からず入るよりは、準備できます」
ガルムの眉が寄る。
「簡単に言う」
「簡単ではありません」
レイラは河川図を卓へ広げた。
「だから、皆さんへ頼みます」
命令ではない。
兵を出せとも、王女を守れとも言わない。
「河道を知る方。カラン西部の地形を知る方。オーランド側の河港へ入る方法を知る方。敵の印を見分けられる方。私は、誰が必要なのかも分かりません」
「それで、よく行くと言えるな」
ドルンが言う。
「分からないから、知っている方へ頼んでいます」
「王家は、以前も森へ道を求めた」
「はい」
「二十三人が戻らなかった」
「覚えています」
「同じことになれば」
「私を置いて、戻ってください」
円堂が静かになる。
ルーウェンの顔から、僅かに表情が消えた。
「何を言っている」
「私を守るために、皆さんが道の外へ残ることは認めません」
「認めるかどうかを、お前が決めるな」
「では」
レイラはルーウェンを見る。
「あなたも、私のために一人で残らないでください」
「状況による」
「それでは約束になりません」
「戦いへ行く前に、できない約束を求めるな」
「戻ると約束しました」
「前回はな」
「今回もです」
「敵の数も、場所も分からない」
「それでも」
「レイラ」
強い声。
だが、レイラは目を逸らさなかった。
「二十三人の記録を読みました」
アレス。
ティナ。
ファルド。
ミレア。
まだ、すべての名を覚えたわけではない。
それでも、一人ずつ数字ではなく、人として読んだ。
「王国の者を逃がすため、森の方々が戻れなくなりました。私は、同じことを繰り返したくありません」
「なら、お前が残ればよい」
「町が燃やされた時、その責任を誰へ渡しますか」
「脅した者だ」
「はい」
レイラは頷いた。
「燃やす責任は、燃やした者にあります。ですが私は、止められる可能性を知りながら何もしなかった自分を、あとから知らなかったことにはできません」
正しいかは分からない。
行けば、敵の望みどおりになるかもしれない。
行かなければ、別の町が襲われるかもしれない。
どちらにも危険がある。
「私は、自分を差し出しません」
レイラは言った。
「ですが、自分だけを安全な場所へ置くこともしません」
サリエルは長く目を閉じ、やがて白い杖を地面へ一度だけ打った。
「白石河港へ向かうことを認める」
ガルムが顔を上げる。
「サリエル」
「ただし、白羽のためだけではない」
老女はルーウェンを見る。
「白枝が残した道は、森の外にありながら、森と無関係ではない。人攫いの河道が再び使われているなら、閉じる責任が我々にもある」
「同行者は」
書記が尋ねる。
「ルーウェン。エルナ。ドルン」
ドルンが僅かに眉を上げた。
「私が?」
「王家だけで判断させぬためだ」
「監視役ですか」
「森の目だ」
「同じでは」
「呼び方は好きにしろ」
ドルンはレイラを見る。
「私は、王女の命令には従わない」
「命じません」
「無謀なことをすれば止める」
「お願いします」
「森へ不利益があれば、連れ戻す」
「その時は、理由を教えてください」
「従うとは言わないのか」
「聞いてから決めます」
ドルンの口元が、ほんの少しだけ歪む。
「面倒な王女だ」
「よく言われます」
「誰に」
レイラはルーウェンを見る。
「いろいろな方に」




