第七十八部 白い羽根と白い枝は、同じ河へ向かう話 ① 発掘された外套と、白い枝の紋様
ルーウェンの家から、九十七年前の外套が発掘された。
正確には、冬根を詰めた木箱を六つ、乾燥茸の袋を十一、漬物用の重石を三つ、保存用の豆を入れた大樽を一つ。それらをすべて外へ運び出したあと、床下へ置かれていた古い衣装箱の中から、ようやく見つかった。
「これは、まだ着られるのでしょうか」
レイラは、両手で外套を持ち上げた。
「着られる」
ルーウェンは迷いなく答えた。
深緑色だったはずの布は、長い年月を経て灰色に近くなっている。肩口には小さな虫食いがあり、裾には何かの染みが残り、片方の袖だけが僅かに短い。
「少し、香りがします」
「冬根だ」
「かなり強いですね」
「洗えば落ちる」
「何度ほど?」
「分からない」
ルーウェンが外套を受け取ろうとしたため、レイラは少しだけ後ろへ引いた。
「本当に、これを着るつもりですか」
「ああ」
「ほかの服を借りた方が」
「私の物だ」
「九十七年前の?」
「そうだ」
「そこが問題なのです」
家の外では、木箱を運んでいたエルナが肩を震わせている。
「笑っているな」
ルーウェンが言う。
「いいえ」
「背中が動いている」
「重かっただけです」
「空の箱だ」
「では、風でしょう」
明らかに笑っていた。
レイラは外套をもう一度眺め、短くなった袖を指で摘まんだ。
「縫い直せば、使えるかもしれません」
「そのままでいい」
「昔から短かったのですか」
「枝へ引っ掛けた」
「縫わなかったのですか」
「動けた」
「服の修繕と、身体が動くことは別です」
最近、似たような理屈をどこか遠くで誰かが言っている気がしたが、レイラが知るはずはない。
「白枝と呼ばれていた方が、片袖の短い外套を着ていたのですか」
「問題があるか」
「伝説としては、少し格好がつきません」
「伝説ではない」
「では、修繕しましょう」
「時間がない」
「針と糸があれば、すぐです」
「誰が縫う」
レイラは自分の指を見た。修道院では衣服の繕いもした。上手とは言えないが、ルーウェンよりはよいだろう。
「私が」
「やめておけ」
「なぜですか」
「前に、袋の口を縫い合わせて開かなくした」
「一度だけです」
「中に銀貨が入っていた」
「安全になりました」
「使えなくなった」
「切ればよかったでしょう」
エルナは、とうとう声を上げて笑った。
レイラとルーウェンが同時に振り返る。
「申し訳ありません」
エルナは口元を押さえた。
「九十七年ぶりに帰ってきた白枝が、王女と外套の袖で揉めていると思うと」
「何がおかしい」
「昔から、服へ無頓着でしたね」
「着られればよい」
「その考えで、森の外でも過ごしていたのですか」
「ああ」
「白枝の協力者たちは、よく耐えましたね」
「服を見て協力していたわけではない」
エルナはさらに笑い、レイラもつられて口元を緩めた。
森へ来てから、笑える時間が増えている。
同時に、笑った直後に過去が追い付いてくることも増えた。
衣装箱の底には、古い外套だけではなく、細長い木箱が一つ残っていた。
ルーウェンの表情が変わる。
「それを」
「開けてよいですか」
レイラが尋ねても、すぐには答えなかった。
「ルーウェン?」
「私が開ける」
彼は木箱を持ち上げ、積もっていた埃を手で払った。
蓋へ刻まれているのは、葉を三枚重ねたシルヴァスの古い紋様。その中央に、白い枝が一本、横向きに描かれていた。




