第六十三部 道は、広ければよいわけではない話 ③ 窓辺の茶と、食事を大切にする話
食堂の窓辺には、山側で採れた薬草を使った温かい茶と、黒パン、柔らかな乳酪、薄く切った燻製肉が用意されていた。
アーデルハイトは、最初こそ帳面を膝の上へ置いていたが、リヴィアから無言で見つめられると、小さく息を吐き、隣の椅子へ移した。
「読まないとは言っていません」
「食べ終わってからなら、好きなだけ読めばいいわ」
「仕事を止めろとは言わないのですね」
「言えば、余計に止めないでしょう?」
「分かっているなら、最初から何も言わないという選択肢もあります」
「それでは、朝食を取らないでしょう」
リヴィアは、平然と答えた。
アーデルハイトは、反論を諦めたように黒パンをちぎった。
その横で、カミラは包帯の外れた右手を使い、茶の入った杯を持ち上げている。
動きは、まだ少し慎重だった。
だが、両手を使わなければ持てないわけではない。
レオンは、燻製肉へ手を伸ばしながら、その様子を横目で見た。
「何だ」
カミラが尋ねる。
「いや」
「見ていただろう」
「動くようになって、よかったと思っただけだ」
カミラは、杯を持ったまま、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「……そうだな」
短い返事だった。
けれど、拒むような響きはなかった。
リヴィアは、二人の会話を聞きながら、何も言わずに茶へ口を付けた。
アーデルハイトも、わずかに視線を下げる。
気付いていないふりをすることも、親切の一つらしい。
食事を半分ほど終えたところで、若い秘書官が食堂へ入ってきた。
「アーデルハイト様。コンラート様が、地図室へ来るようにと」
「私だけですか」
「いいえ。レオン殿、カミラ殿、リヴィア殿も、ご一緒にとのことです」
秘書官は、そこで少しだけ間を置いた。
「ただし、朝食を終えてからでよいと」
アーデルハイトが、ゆっくりとリヴィアを見る。
リヴィアは、満足そうに微笑んだ。
「コンラート様も、分かっていらっしゃるわね」
「先回りされた気がします」
「よい父上ではないか」
レオンが言う。
「レオン殿まで、そちら側へ回るのですか」
「俺は、常に食事を大切にしている」
「そこだけは、よく分かります」




