第五十七部 賞金首と、少佐が大佐を止められる理由を聞く話 ② 俺の扱いと、監察官の信用
レオンは、毛布の端を指で摘まみながら、もう一つ訊いた。
「それなら、俺の扱いは何だ」
「扱い、とは」
「俺は、帝国の手配書へ載っている。首には金貨千枚。白鷹門で自分から名乗った以上、顔を知る兵士も増えた」
声へ出すと、金貨千枚という数字は、妙に現実感がなかった。
人が一生働いても手にできるか分からない額。
傭兵時代に、酒場の壁へ貼られた古い手配書を見たことがある。正確な似顔絵は載っていなかった。身分、名前、年齢の目安、特徴、賞金額だけが書かれ、紙は何度も貼り直されたため、端が黒く汚れていた。
あの紙に書かれた本人が、自分であることを知る者は多くなかった。
だが、白鷹門では違う。
「曹長たちは、俺を捕まえれば、一生遊んで暮らせる」
「すでに捕まえております」
クラウゼは即答した。
レオンは少し黙った。
「たしかに」
「正確には、ヴァルター軍監殿の直轄保護拘束下です」
「保護なのか、拘束なのか、どちらかへ寄せられないのか」
「両方である必要があります」
クラウゼの声音は変わらない。
「賞金が消えたわけではありません。帝国から正式に赦免されたわけでもない。ただし、あなたは白鷹門事件の重要証人であり、軍内部へ浸透した者にとって、利用または抹消する価値のある人物です」
「高価な荷物」
「先ほどから、そう申し上げています」
「人間の尊厳が」
「残っています。荷車の上に」
レオンは、しばらくクラウゼを見た。
曹長は前を向いたままだ。
おそらく、かなり真面目に答えている。
だから、なおさら腹が立つ。
「では、途中の関所で、兵士が俺へ気づいたら?」
「軍監殿の直轄命令書を確認させます」
「金貨千枚を受け取りたいと言ったら?」
「命令に従うよう説得します」
「それでも剣を抜いたら?」
「軍紀違反として拘束します」
「俺ではなく、兵士を?」
「あなたは、すでに拘束されています」
また戻った。
レオンは、目を閉じた。
「自由とは、難しいな」
「白鷹門で名乗った時点で、簡単ではなくなった」
カミラが静かに言った。
その言葉には、責める響きはなかった。
名乗らなければ、助けられなかった人間がいる。
旧リュカリオンの名を勝手に使われたまま、逃げることもできなかった。
だから名乗った。
その結果として、自分の顔と生存は、以前より多くの人間へ知られた。
選んだ以上、背負うしかない。
「赦されたわけではない」
レオンは言った。
「そうだ」
カミラが答える。
「だが、処刑台へ送られるわけでもない」
「少なくとも、今すぐには」
「少し言い方を選べ」
「事実だ」
カミラは地図を畳み、街道の先へ目を向けた。
「ヴァルター軍監は、あんたを帝国内へ長く置く危険と、処刑または正式拘束によって起きる政治的混乱を秤へ掛けた。旧臣民が生存を知った以上、雑には扱えない。軍内部へ入り込んだ者がいる以上、通常の保安経路へも渡せない。だから、一度、帝国外へ出す」
「アルムロイトへ」
「ヴァルター軍監が、辺境伯を信用している」
「個人的に?」
「おそらくは」
カミラは、先頭を進むハインリッヒの書類袋へ視線を向けた。
「正式な外交文書だけで済む話ではない。だから、私信を持たせた」
レオンは、少しだけ笑った。
「俺は、国境を越える面倒な荷物か」
「面倒な点だけは、異論がない」
「そこは否定してほしい」
「事実を曲げると、監察官としての信用が落ちる」
──第五十七部 了




