表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

296/318

第五十七部 賞金首と、少佐が大佐を止められる理由を聞く話 ② 俺の扱いと、監察官の信用

 レオンは、毛布の端を指で摘まみながら、もう一つ訊いた。


「それなら、俺の扱いは何だ」


「扱い、とは」


「俺は、帝国の手配書へ載っている。首には金貨千枚。白鷹門で自分から名乗った以上、顔を知る兵士も増えた」


 声へ出すと、金貨千枚という数字は、妙に現実感がなかった。


 人が一生働いても手にできるか分からない額。


 傭兵時代に、酒場の壁へ貼られた古い手配書を見たことがある。正確な似顔絵は載っていなかった。身分、名前、年齢の目安、特徴、賞金額だけが書かれ、紙は何度も貼り直されたため、端が黒く汚れていた。


 あの紙に書かれた本人が、自分であることを知る者は多くなかった。


 だが、白鷹門では違う。


「曹長たちは、俺を捕まえれば、一生遊んで暮らせる」


「すでに捕まえております」


 クラウゼは即答した。


 レオンは少し黙った。


「たしかに」


「正確には、ヴァルター軍監殿の直轄保護拘束下です」


「保護なのか、拘束なのか、どちらかへ寄せられないのか」


「両方である必要があります」


 クラウゼの声音は変わらない。


「賞金が消えたわけではありません。帝国から正式に赦免されたわけでもない。ただし、あなたは白鷹門事件の重要証人であり、軍内部へ浸透した者にとって、利用または抹消する価値のある人物です」


「高価な荷物」


「先ほどから、そう申し上げています」


「人間の尊厳が」


「残っています。荷車の上に」


 レオンは、しばらくクラウゼを見た。


 曹長は前を向いたままだ。


 おそらく、かなり真面目に答えている。


 だから、なおさら腹が立つ。


「では、途中の関所で、兵士が俺へ気づいたら?」


「軍監殿の直轄命令書を確認させます」


「金貨千枚を受け取りたいと言ったら?」


「命令に従うよう説得します」


「それでも剣を抜いたら?」


「軍紀違反として拘束します」


「俺ではなく、兵士を?」


「あなたは、すでに拘束されています」


 また戻った。


 レオンは、目を閉じた。


「自由とは、難しいな」


「白鷹門で名乗った時点で、簡単ではなくなった」


 カミラが静かに言った。


 その言葉には、責める響きはなかった。


 名乗らなければ、助けられなかった人間がいる。


 旧リュカリオンの名を勝手に使われたまま、逃げることもできなかった。


 だから名乗った。


 その結果として、自分の顔と生存は、以前より多くの人間へ知られた。


 選んだ以上、背負うしかない。


「赦されたわけではない」


 レオンは言った。


「そうだ」


 カミラが答える。


「だが、処刑台へ送られるわけでもない」


「少なくとも、今すぐには」


「少し言い方を選べ」


「事実だ」


 カミラは地図を畳み、街道の先へ目を向けた。


「ヴァルター軍監は、あんたを帝国内へ長く置く危険と、処刑または正式拘束によって起きる政治的混乱を秤へ掛けた。旧臣民が生存を知った以上、雑には扱えない。軍内部へ入り込んだ者がいる以上、通常の保安経路へも渡せない。だから、一度、帝国外へ出す」


「アルムロイトへ」


「ヴァルター軍監が、辺境伯を信用している」


「個人的に?」


「おそらくは」


 カミラは、先頭を進むハインリッヒの書類袋へ視線を向けた。


「正式な外交文書だけで済む話ではない。だから、私信を持たせた」


 レオンは、少しだけ笑った。


「俺は、国境を越える面倒な荷物か」


「面倒な点だけは、異論がない」


「そこは否定してほしい」


「事実を曲げると、監察官としての信用が落ちる」



 ──第五十七部 了


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ