第五十四部 追放という名の保護と、辺境伯へ渡す手紙の話 ④ 追放という名の保護と、託された封書
「監察官」
ヴァルターは、カミラを見る。
「お前も、帝国外へ出ろ」
「ああ」
「白鷹門での協力は、記録へ残す。今回の越境行為について、北方軍が拘束することはしない」
「助かる」
「ただし、帝国内へ残れば、イタリカとの外交問題になる」
「分かっている」
「どこへ行く」
カミラは、少しだけ間を置いた。
「円の中の目を追う」
「帝国の外で?」
「必要なら」
ヴァルターは、次に俺を見る。
「こいつと?」
カミラの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「監察の継続上、同行が妥当だ」
低い声。
言葉は整っている。
ただし、耳は赤い。
「便宜上?」
俺は訊いた。
「黙れ」
「非常に便利な言葉だ」
「黙れ」
「護衛料の残額について、改めて」
「本当に黙れ」
カミラの革袋が、俺の膝へ置かれた。
腹ではない。
やはり優しい。
「痛くない」
「なら、次は腹へ載せる」
「申し訳ない」
即座に答えた。
ヴァルターが、ハインリッヒへ視線を向ける。
「護送中に、余計な怪我を増やさせるな」
ハインリッヒは、少しだけ考えた。
「難易度の高い任務です」
「軍監付連絡士官として、最善を尽くせ」
「承知しました」
「かなり大変そうだな」
俺が言う。
ハインリッヒは、こちらを見た。
「原因は、お前だ」
正確だった。
◇
封書は、俺たちへ託された。
ただし、移動中はハインリッヒが保管する。
負傷者へ重要書類を持たせる必要はないと言われた。
「信用がない」
「実績がある」
「最近、そればかり言われる」
「正しいからだ」
命令書も、一枚にはまとめない。
北方第三宿駅から先の護送経路は、区間ごとに分ける。アルムロイトへ向かうことを知る者も、必要最低限へ絞る。少人数の帝国兵が同行し、国境へ近づいた段階で、辺境伯領側へ受け入れの可否を確認する。
簡単ではない。
だが、道は動き始める。
北方。
南方。
西方。
東部。
白鷹門の火は消えた。
それでも、火を入れた手は、大陸の別の場所でも動いている。
机の上には、青い細線が残っていた。
壁へ掛けられた地図には、アルムロイト辺境伯領の広大な山河が描かれている。
さらに遠くでは、別の誰かが、別の紙と、別の重さを見ていた。
──第五十四部 了




