第四十八部 儀礼待合室と、名乗らないまま止める話 ② 門壁の内側を歩いて
旧税関詰所から儀礼待合室までは、門壁の内側へ沿って歩けば遠くない。
ただし、中央広場から完全に隠れる道ではなかった。
俺は毛布を肩から掛け、カミラへ右側から支えられながら歩いた。左上腕の傷も腹の裂傷も、荷車を降りた瞬間から存在を主張している。走れない。剣を振るえば、たぶん縫い直した傷が開く。
それでも、寝台へ戻るつもりはなかった。
「ゆっくり」
カミラが低い声で言う。
「歩いている」
「倒れない速度で」
「かなり遅い」
「今のあんたには、それでいい」
右腕が俺の背中へ回り、体を支える。
背中へ回された腕は近く、温かい。非常に良い状況ではあるが、今は余計なことをしない。たぶん、少しだけ成長した。
「何を考えている」
カミラが訊いた。
「かなり真面目なことだ」
「顔が最低だ」
「証拠は」
「実績」
正確だった。
通路の途中から、中央広場の一部が見えた。
白い外套をまとった偽の王子は、まだ演壇にいる。老人の手を取り、泣いている女へ言葉を掛け、旧村名を書いた紙を持つ男へ頷いていた。
演技だけではない。
人々を利用するために笑っているだけなら、もっと簡単に憎める。
だが、男の視線は、麦粥の鍋、薬箱、家族札、子ども、老人へ向いている。少なくとも、目の前にいる人々を見ている。
「人を集めるための顔ではある」
俺は言った。
「ただし、燃やすための顔には見えない」
カミラも演壇を見る。
「だから厄介だ」
「ああ」
「善意だけなら止めやすい。悪意だけでも止めやすい。両方が混ざると、紙の上では見分けにくい」
ハインリッヒが、少し前を歩きながら言った。
「ヘスラー大佐も同じだ」
帝国北方を守るために、旧五国出身者を登録し、集め、監視下へ置く。それを必要な仕事だと信じている男。
旧臣民を焼くための薪だとは思っていない。
ただし、人間を分類し、一つの命令へ従わせる仕組みは、別の誰かにとって使いやすい。
「円の中の目は、悪人だけへ寄生するわけではない」
カミラが言った。
「正しいと思っている仕組みにも、少しだけ別の意味を足す」
通路の先に、儀礼待合室の扉が見えた。
──第四十八部 了




