第四十七部 白鷹門の内側と、名乗れば負ける王子の話 ② 配置図と、白樺礼拝堂の紙束
ハインリッヒは、机の上へ白鷹門の配置図を広げた。
「コンラート・ヘスラー大佐についても、先に言っておく」
「保安監督室長」
カミラが言う。
「ああ。ただし、地下組織の工作員だと決めつけるな」
俺は荷台の上で顔を向けた。
「違う?」
「少なくとも、俺はそう見ていない。ヘスラー大佐は、帝国北方を守るためには旧五国出身者を登録し、集め、監視下へ置く必要があると、本気で信じている男だ」
「人を燃やしても?」
「白樺礼拝堂の火まで命じた証拠はない」
ハインリッヒの声が少しだけ低くなる。
「むしろ、礼拝堂で火が上がったと知れば怒る可能性がある。大佐にとって旧臣民は、焼くための薪ではなく、管理すべき危険だ。違いは小さく見えるが、実際には大きい」
カミラは、少し考えた。
「円の中の目が、大佐の計画へ火を足した?」
「可能性はある」
「本人は、それに気づいていない」
「気づいて利用している可能性も捨てられない」
「面倒だな」
俺が言うと、ハインリッヒはため息をついた。
「本当に、政治へ向いていないな」
「褒め言葉として受け取る」
「褒めていない」
正確だった。
◇
カミラは、白樺礼拝堂で回収した別の紙束を机へ広げた。
忠誠登録名簿、旧村名、家族名、年齢、職業、怪我の有無、移送先。その紙の端には、よく似ているが少しずつ異なる青い細線が引かれている。
「線の違いが増えている」
カミラが言った。
「何種類」
「少なくとも四つ。赤に近い青、濃い青、薄い青、二重線」
俺は少しだけ起き上がろうとしたが、腹へ痛みが走った。
「横になっていろ」
カミラは紙から目を離さずに言った。
「見えない」
「説明する。濃い青は、十六歳から四十歳前後の男に偏っている。鍛冶、荷役、農作業、元兵士、馬を扱える者。薄い青は、老人、女、子ども。二重線は、旧村で役職を持っていた者、昔の軍歴がある者、旧王家へ近い家名を持つ者だ」
「人を救うための分類ではない」
「ああ」
「濃い青は、兵にする?」
「あるいは、兵へ見せる」
カミラは紙の端へ指を近づけた。
「武装させれば、反乱軍を作れる。武装させなくても、旧王家へ忠誠を誓った働き盛りの男を一か所へ集めれば、帝国軍は警戒する。薄い青の札を持つ老人、女、子どもを白鷹旗の下へ置けば、帰還劇は本物らしく見える。二重線の札を持つ昔の村長、下級官吏、退役兵、旧王家へ仕えた家を演壇の近くへ並べれば、周囲はさらに信じやすい」
救い、集め、分け、並べ、使う。人間を一人ずつ見るのではなく、舞台へ必要な役割として置く。
「嫌いだな」
俺が言うと、カミラは紙を見たまま答えた。
「ああ。番号へ戻す奴と同じだ」
荷車の上で話したことを思い出す。
名前を奪い、年齢、体格、歯、働けるか、逃げたことがあるかだけを紙へ残し、人間を人間として扱わない。
「止める」
俺は言った。
「止める」
カミラも答える。
短い言葉だった。
だが、同じ方向を見ている。
──第四十七部 了




