第二十八部 白い鳥の印が、嘘を運ぶ話 ④ アルストラへの船
その夜、アルストラ行きの準備が始まった。
サレーネ船団は、正式な大型船ではなく、小型の快速船を出すことになった。
名前は《白翼》。
リヴィアの指揮。
テオ同行。
俺は、当然のように医療寝台つき。
マリノも同行することになった。
「なぜお前まで」
俺が訊くと、マリノは荷をまとめながら言った。
「あなたがいるからです」
「俺は疫病か」
「継続管理対象です」
「言い方」
「正確です」
リヴィアが横から言った。
「ロド・カナリ、出航まで休んでください」
「また寝ろか」
「はい」
「俺は寝てばかりだな」
「寝ていても話が進む稀有な方です」
「褒めてるのか」
「必要だと言っています」
「その言い方、好きだな」
「便利です」
テオが煤を落としながら笑った。
「ロド、君はそろそろ自分が便利に使われる側だと認めた方がいい」
「商人に便利と言われると不安になる」
「正しい反応だね」
港の外には、夜の海が広がっている。
アルストラはその先だ。
妹がいるかもしれない島。
もういないかもしれない島。
俺は寝台に横になり、天井を見た。
船ではない。
港の仮眠室だ。
それでも天井が揺れている気がする。
自分の中の海が、まだ止まっていない。
俺は革袋を胸に寄せた。
空の硝子管。
死者名簿。
青銅の札。
偽の白い鳥の木札。
また、持つものが増えた。
軽いものほど、後で重くなる。
誰かがそう言ったわけではない。
俺が、そろそろ分かってきただけだ。
目を閉じる。
レイラの声が、遠くで聞こえた気がした。
兄上。
森の王は、本当に耳が長いのですか。
俺は夢の中で答えた。
知らん。
だが、長かったら、お前の声もよく聞こえるかもしれない。
そこで、目が覚めた。
いや、眠れていなかったのかもしれない。
港の鐘が、夜を告げていた。
旅はまた、海へ戻る。
そして、たぶん。
もう少しで、過去が追いついてくる。
──第二十八部 了




