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第二十六部 朝潮と、間違えた灯の返事の話 ⑥ 揺れる桟橋
桟橋へ降りる前、俺は一度だけ振り返った。
海の向こう。
白鳥礁の方角。
黒帆は小さな黒い点になっていた。
完全には終わっていない。
手は止めた。
だが、目はまだどこかで見ている。
紙の向こうの人。
円の中の目。
王家筋、未確定。
その言葉たちが、波の音に混じって聞こえる気がした。
俺は革袋を握った。
空の硝子管が、からん、と鳴った。
陸の音。
戻ってくる音。
その隣で、死者名簿が重く沈んでいる。
名前は軽くない。
記憶も軽くない。
なら、王家の血など、もっと軽くしてはいけない。
そう思った時、胸の奥が少しだけ冷えた。
リューリック。
お前は今、何を見ている。
俺は口に出さなかった。
出せば、またリヴィアに記録される。
代わりに、足元を見た。
桟橋は揺れている。
陸に着いたはずなのに、まだ信用できない。
俺はため息をついた。
「シーロも揺れるのか」
リヴィアが振り返らずに言った。
「港ですから」
「海、しつこいな」
「ようこそ、シーロへ」
彼女はそう言った。
歓迎の言葉のわりに、たいへん不穏だった。
だが、たぶん、この国ではそれが正しいのだろう。
俺たちは、サレーネ船団本部へ向かった。
死んだはずの水夫の名と、消えた生き残りを追って。
──第二十六部 了




