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第二十三部 黒帆と、海の姫の怒りの話 ① 鳴る鐘
海の上で鐘が鳴ると、床の揺れ方まで変わる。
いや、床は同じように揺れているのだろう。
変わるのは、人間の方だ。
水夫の足音が速くなる。
声が低く短くなる。
縄が鳴る。
帆が鳴る。
木が軋む。
それまで顔のなかった船が、急に巨大な獣みたいに息を始める。
俺はその腹の中で、運ばれていた。
たいへん情けない。
だが、情けないと思えるうちは、まだ生きている。
俺の名は、レオン。
便宜上は、ロド・カナリ。
二十八歳。元王子。現傭兵。職業、負傷予定者。
趣味、惚れること。
専門、死にかけて誰かに縫い直されること。
この日、俺は知った。
海の上では、立てない男にも役目がある。
ただし、その役目が格好いいとは限らない。




