僅かな温もり
「ほら。重いから、気をつけろよ」
源次郎から受け取った盆栽を軽く持ち直し、小春へと差し出す。
小春はおずおずと手を伸ばし、その盆栽を受け取る。が、思った以上にずっしりと腕にかかる重みで、僅かに鉢が傾いた。
「あ」
短く声を上げるが早いか、素早く勇が鉢に手を添えた。
ほんの一瞬、指が重なる。
「……!」
「落とすと危ないぞ。大丈夫か?」
何事もなかったようにそう言う勇に、小春は一拍置いてようやく頷き返す。
「……だ、大丈夫」
声が微かに震える。
小さい盆栽を両手で抱えながら、小春は重なった手をそっと握り込んだ。
たった一瞬。あの一瞬で、心臓が止まりそうだった。
触れた部分だけが、熱を持ったように熱くなっている。
「じゃあ源次郎さん。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうよ!」
勇は源次郎に頭を下げると、小春もつられて小さく頭を下げた。
先を歩く勇の半歩後ろを、追いかけるようについて歩く小春の姿を見て、源次郎は笑いながらぽつりと呟いた。
「最近の若者は、マセてるねぇ……」
米屋の前に来ると、勇は足を止めて灯りの点いた部屋を見た。その表情はどこか固い。
「……怒られないかな」
「え?」
「あ、いや……。じゃ、俺も帰るから」
勇はそう言うと、そそくさと逃げるように米屋の前から立ち去った。
呼び止める間もなく行ってしまった勇を見て、名残惜しい気持ちを抱えながらも、小春は手の内に残った盆栽を見つめて小さく笑みをこぼした。
「……大事に、するね」
直接言えなかった言葉を小さく呟き、小春も部屋に戻る。
抱えていた盆栽を窓際に置いた小春は、その前に座り込みじっと見つめ続ける。そして、先ほど勇の手と重なった手を見つめ、大切に握りしめて瞳を閉じため息を一つ吐く。
――今日は、とても楽しかった。
まだ、鼓動が速い。触れた指には、勇の手の感触が残っている。思い出しただけで胸がいっぱいになるほど、喜びに満たされた瞬間だった。
同じ頃、自宅に戻った勇も自室に入り、ごろりと畳に大の字になった。
――こんな時間まで出歩いたの、あの時以来だ。
ふっと目を閉じ、大きく息を吐く。
今回は大きな問題が起こらなかったことに、心から安堵していた。
昔と違って、大人になっている。
その分重くなってくる責任に、勇は十分に気を払っていた。また同じようなことが起これば、勘助もろとも勇の仕事にも影響が強く出る。
――一家離散、なんてことにでもなれば……。
勇は薄く目を開き、ぼんやりと天井の一点を見つめた。
――もう、誰にも迷惑はかけられない。
勇は左手の手首を目元に乗せる。
――小春だって……。
『あれ……欲しいって言ったら、困る?』
そう言いながら袖を引かれたことを思い出す。
出先で小春に会うとは少しも考えていなかった。
出歩いて、確かに多少の気は晴れたが、今こうしてみれば、胸の奥にあるモヤは全く晴れていない。それどころか、更に深みにはまったような複雑な気持ちになっていた。
勇は大きく息を吸い、深いため息を吐く。
「……どうしろってんだよ」
誰に言うでもない呟きがこぼれた。




