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保険の3大原則

首都から無事に戻った三人はその次の日の朝、キャロルの家で戦略会議なるものを催す運びとなった。

議題はもちろん


「それで保険とはいったいどういうものなんだ?

つくると豪語はしていたが、結局詳しい説明もないまま今日を迎えてしまった。」

正面の席で不良みたいに浅く椅子に腰掛けて、腕組みしながら椅子の背に頭を預けているのはこの家の主である。

さきほどからあくびを連発しているので朝がどうも苦手らしい。


「みんなでお金を出し合って、困ったことがあったらその人を助ける。

そういう仕組みで保険は成り立っているんだって。」

私のときには全然役に立たなかったけどね。右隣の席で口を尖らせているのはアリス。

その経験から保険に対して懐疑的なところがあるらしい。


「保険は事前に加入している人じゃないと給付を受けられない仕組みなんだよ。」


「事前?それってすごく曖昧な言葉だよね。

その基準はどこにあるの?

トラブルが起きた後に加入はできないわけ?」


「トラブルが起きた後か…

議論を呼ぶ面白い指摘だとは思うけど、アリスみたいな人を保険が全てカバーしていたら、

その保険会社は早晩倒産することになるだろうね。」

心のメモにこの会話を留めておく。

契約書を作る際に基準日でモメないようにしておかなくては。


「それで山田さんは具体的になにを保障して誰にそれを売るつもりなんですか?」

左隣の席で、膝の上にちょこんと両手を置いて、ソワソワと落ち着かない様子で発言したのはウルク。

彼はどうにもキャロルに対して苦手意識があるらしく家に入ってからはずっとこんな調子だ。


「それはすでに決まっていて、鉱夫向けに損害保険を販売するつもりでいる。」


「損害…ですか。

意味がとても広いですね。」

言葉足らずでピンときていない様子。

それも無理はない。なんせこのなかで保険を知っているのは俺だけなんだ。


「聞くところによると彼らが使っている道具はどれも自前で、私物を使って鉱山で働いているようだね。」

それは当然のことだよ。とキャロルが応じる。

きっと彼女の仕事道具もそうなのだろう。


「二人には道具の使用価値に関する話をしたけど、どういう内容だったか覚えている?」


「つるはしの値段は掘り出す銀の量によって決まるとかいうやつでしょ。」


「うん。鉱夫はつるはしの使用価値を見込んでそれを購入しているわけだな。

けど世の中には不運なことが存在あって、その購入代金を回収するよりも前に道具が壊れてしまうリスクがある。」


「気の毒なことですがそれは世の中にありふれた話ですね。

ツキがなかったとしか。」


ウルクが肩をすくめる。


「その個人の不幸を諦めずに済む仕組みがあるとしたら?」


話の本題に入り拳に力が入る。


「損害保険はそうした悲劇を変えられるものなんだ。

アリスが説明したように契約者から少しずつお金を集めて、仕事道具を壊した人がいたらそれに対して保険金を支払う。

これが俺がつくろうとしている保険だ。」


「不運を皆で分け合うってこと?

なんかちょっと魅力的に思えてきたかも。」


アリスが態度を軟化させて俺に同調してくれる。

やはり砂糖の借金で思うところがあったのかもしれない。


「幸運と不幸を集めてそれを均すといった方が適切かもね。」


道具をすぐに壊してしまう人がいれば、幸運にもそれが長持ちする人もいる。

保険が提供するものはリスクの平準であって救済とは少し違う。


「道具が壊れたらそれに対してお金を支払う商売ですか。

すると集めて使われなかった余りが山田さんの利益になるんですね。」


「余るという表現は保険にはあまり相応しくないけど、今はその理解でいいよ。」

もちろん商売でやるわけだからマージンを受け取る権利は存在している。


「確かにこの街にそれに類似した商売はないので特権を取得できる可能性はおおいにあると思います。」


「イリアスの弟子が言うのだから心強いよ。」

この中では彼が一番街の経済を把握しているだろう。


「君がやろうとしていることのあらましはだいだい理解できた。

それで、その保険を作るには具体的になにをすればいい?」


腕組みを崩して、くっつけた人差し指と中指をキャロルがピンと立てる。


「集めて渡すとお金の流れは実にシンプルなものだが、適当にそれを作ってしまったらその商売はとんでもない大損を引き起こす。

それこそリスクがあるんじゃないのか?」


「集めすぎ。それも私的には問題だと思うけど、

渡し過ぎた場合はそれが全て赤字になるわけだしね。」


女性陣から懸念の声が続く。


「まだ未成熟で産まれたての保険にはそういった失敗が多くあったと聞くね。

けど安心して欲しい。

俺はこの未開の大地に流星のごとく降り立った現代人なんだ。」


「「「未開?」」」

三人の眉が吊り上がるのを無視して俺は言葉を続ける。


「だから事前にそのお金の流れを計算して、保険をギャンブルから数理ファイナンスへと押し上げる。」

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