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保険づくりを決意

「諦めるのはやっ!」

アリスが口をあんぐりとさせている。

「ふふふ。

その道理で考えるならば、料理人じゃない君はなにを料理したところで上手くいきっこないことになるな。」

キャロルがまた痛いところをつく。

この舌鋒を今すぐ誰か禁止カードに指定しろ!

「わかったよ。キャロルさんの勝ちでもういいよ。

俺は人に金を貸すだけの信金マン。それでもういいよ。」

ぐひぐひと残ったビールを流し込む。おかわりでも頼もうかな。


「また弱気になってる。」

消え入るような声の発生源に目をやると、アリスは元居た場所で正座をしていた。


「あの時のかっこよかった山田はどうしたの?

イリアスに金利もつけてお金を返してやるんじゃなかったの?」

目と目が合う。

その表情は怒っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。


「あーそういえばそんなことも言ってたな。」

目線を横に泳がして、人差し指でこめかみの辺りをかく。


「今思えばあれだけの啖呵、よくきったもんだよ。

どうしてあんな行動がとれたんだろ?

不思議な力でも働いていたのかな?」


あの立ち回りをするには、かなりの熱血漢でないととれない行動に思える。


「なんだか他人事みたいに言うんだね。

本当に今の状況を理解しているの?

このままだと山田はどこか遠くの場所に売り飛ばされちゃうんだよ?」


「そんなに悲惨な顔をしないでくれよ。

別に死ぬわけでもなしに。」


「ほらやっぱり!

自分のことを話しているのに、なんだか山田からは本気度か感じられないんだよ。

それともなにか私には話していない考えでもあるの?

だからそんな風に余裕な態度を続けられるの?」


「そっ、そんなものあるはずないじゃないか。

伝わっていないのなら謝るけれど、俺はいつだって真剣だ。」

プランBの存在を彼女に話そうかとも思ったがそれも考えなおす。

あれは7年働く必要がなくなるだけだからだ。


「このまま山田と離れ離れになることを想像すると私はすごく寂しいけれど、そう思っていたのは私だけだったんだね。」

俯く彼女。

見間違いだと信じたいが、それに合わせて涙が一滴、地面に向かってこぼれ落ちたように見えた。

そこから始まる重たい沈黙に耐えかねて、助け船をキャロルに求めてみるが、目が合うと彼女はプイッと顔を横にそむけてしまった。

自分でどうにかしろということらしい。

なにか冗談でもとばしてみようか?

いや、ダメだ。

彼女にいま必要な言葉はそんなものでは決してない。


「分かってる。真剣に考えるよ。」

落ち込んでいる彼女をどうにかしたくて、目をつむり腕を組み俺史上一番かってくらい眉間にシワを寄せる。


「まず俺はキャロルの言う通りで料理人なんかじゃない。

だから自分が得意なことを活かさないと、何事も上手くいくはずがないんだ。

俺はどこまでいっても信用金庫の職員なんだ。」

アリスに砂漠で助けてもらってから、この定食屋に着くまで何か役に立ちそうな情報がないか頭を必死で巡らす。

今までの自分の経験と、この世界で見てきたものを照らし合わせる。


「金利…

そういえばあの市場で見た金貸しだけど、あいつも商人ギルドみたいなものに所属しているのか?」

はからずも見る機会を得た銀行の原型。


「あれはギルドなんて大層なものじゃないさ。

もちろん営業をやるための許可状をは持っているだろうけどね。」

モグリの場合は知らん。とキャロルが付け加える。


「タフィーにも金貸し業はあるのか?」

ターバンから髪がしだれ落ちてしまったアリスの横顔をのぞきこむ。


「うん。

この街ほど繁盛している様子はないけど。」


「他に金融業はある?」


「…金融?

えっと、それってどういうものなの?」


「それだけ聞けたら十分だよ。」

ハハハッと、自嘲してみせる。


「なにか思いついた様子だな。」

歯は見せていないがキャロルが嬉しそうに口角をあげる。


「焦りもあったと思うけど、どうして自分から不利な戦場に飛び込んでいたんだろ?」

頭に砂でも詰まっていたような感覚から解放されて、リアルというものを強烈に実感する。


「商売を始めたいなら自分の能力を自己分析しないと。

今まで他人にそれを散々求めてきたじゃないか。」


「持っている能力を活かすのは大変結構なことだが、

君の世界の住人は一人では何も作れないんじゃなかったのか?」


「物質的なものはね。」


「物質?

経済とは需要のあるモノを相手と交換することだろ?」


「それは商業が未発達な時代の話だ。

俺がいた世界は価値のある商品はモノだけに限定されない。」


「モノではない商品?

なんだか矛盾しているな。」


「それはサービスだよ。

こいつは人の頭が働く限り際限なく開発されるものなんだ。

そして金融はその頂点に近い立場にいる。」


「頂点って、なんだかすごい物言いだけど、それで山田はいったい何を作るつもりでいるの?」

目の周りが赤く腫れぼったくなったアリスに俺は笑顔で応じた。


「俺はこの世界に保険を生み出そうと思う。」

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