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カツカレー作り

「それよりもカツカレーをつくろうよ!」

アリスの目からキラキラ光線がこっちにとんでくる。

「見た感じ豚はいなさそうだし、チキンカツで代用するか。」

俺は市を見渡してから彼女に答える。

残念ながら誰もにわとりを扱っていなかったが、その代わり大小様々な種類の鳥たちが、

せまい鳥籠の中で文字に起こすのが困難な鳴き声でやかましく鳴いている。

「あとはスパイスとお米、カツを揚げるための油もいるな。」

こうして材料を列挙してみると、思いがけずどれも保存がきくものばかりだ。

特に深くも考えずに提案したカツカレーだったが、この環境に案外合っているものだったらしい。

「油なんているの?」

「カツを揚げないといけないからね。」

「どれくらい必要?」

不安そうな面持ちで彼女が訊ねる。

「フライパンがたぷたぷになるくらいかな。」


三人は市での買い物を終えて、今晩お世話になる修道場とやらを訪れた。

名前の語感とドーム型の建物を見るかぎり、そこはホテルではなく宗教関連の施設ならしい。

時間帯が良かったのか、無人の調理場を首尾よく施設の責任者から借りて、俺たちの料理作りが開始する。


「まさか油がそんなにも高価な代物だったとはね。」

買ってきた材料をすべて台に並べて俺は言う。

そこにはカツカレーに必要な食用油と鶏肉が欠けていた。

「砂糖が高級品なんだから、油が高くても不思議ではないか。」

日本の常識をこちらに持ち込んではいけないだ。

「カツ…食べたかったな。」

残念そうな表情を浮かべているアリス。

「とりあえず今回はカレーだけでも作ってみることにしよう。

候補になりそうなスパイスはちゃんと見繕ってきたから。」

とりあえずなんて放言はしたけれど、このカレー作りが一番の鬼門である。

なにせいつもは市販のルーを買ってきて、鍋に放り込んでいるだけなのだ。

その過程を自分でやろうとしているのだからなかなかどうして…

「それで、私たちにも何か手伝えることはあるのか?」

ダーツをむしゃむしゃと咀嚼しながらキャロルが聞いてきた。

満載だったあのかごも今では半分しか残っていない。


「手伝ってくれる感じが全然しないんだけど。」

忙しなく動いている手と口を見て俺はあきれた。

外面は美人だったとしても、中身はアメリカにいそうな巨漢の怠惰なPCオタクみたいである。

食べているそのドライフルーツもなんだかピザに見えてきた。

「お米は私が炊くから山田はカレーに集中して。

味を知っているのはあなただけなんだから。」

この正反対の二人がどのようにして友達になったのか大変興味深い。


それから30分後。

俺は目の前でことことと沸騰している薬膳スープを見つめながら「うーん」と苦悩していた。

やはりというか、予想通りというか、それは全くルーから程遠い仕上がりであった。

まずさらさらしていて水っぽい。

色は少しだけ黄色に染まっていて、最初はそれで喜んだりもしたがよく考えたらカレーは茶色である。

味はしょっぱく、スパイシーではあるが、求めていたものとは違う。

「お米は炊けたけど、そっちはどんな調子?」

鍋の中をアリスがのぞき込む。

「ねっとり感がどうしても出ないんだ。

味も近いようで全然ダメというか。」

スープカレーというジャンルがあるが、俺が作りたいのは日本式カレーだ。

「それなら片栗粉でもいれるといい。

鞄にたしか残っていたはずだ。」


ダーツを食べ終えたキャロルががさこそしてからそれを取り出すと、

袋の緒を開いてサッーと、川にでも捨てるような動作で鍋の中にそれを流し込む。

「あー!なんで勝手に入れんだよ。

これは中華料理じゃないんだぞ!

しかも溶かずに入れるからだまになっているじゃないか。」

ぼこぼことねっとりした泡が弾ける。これでは餡掛けだ。

「他に足りないものはある?」

「…もはやそんな次元ではないのかもしれない。

たぶん致命的なスパイスが欠けているせいで、どうやってもカレーにたどり着けない気がしてきた。」

キャロルのせいにするつもりはなかったが、片栗粉事件で俺はついに心が折れて鍋を火からあげる。

一発でうまくいくとも思ってはいなかったがこれは散々な結果だ。

「アリス、塩を持っていたりはする?」

「うん、あるけど。」

「日本にはね、おにぎりというそれはそれは大変美味しい料理があるんだ。」

炊き立てのご飯を死んだ目で俺は見つめていた。

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