王様のいる街に到着 鍛冶場を散策
砂漠を抜けて山を一つまたぎ、俺たちは平原へと到着する。
そこにアリスが言っていた王様が住んでいる街―正式名称をカサズ―があった。
その街の外観を遠くから見て最初に抱いた感想は巨大な迷宮だった。
タフィーでは朽ちた土壁で四方が囲われていたが、
ここでは焼き固めたレンガが大人の背丈二人分ほどの高さまで積まれ、街を強固に防衛している。
入口となる巨大な門には切り出した色鮮やかなタイルが装飾されており、
緑と青をベースに、万華鏡をのぞいた時のような光景があしらわれていた。
「トラブルのせいで明け方の到着とはならなかったな。」
「別にいいよ、とりあえず三人ともこうして元気なんだし。」
門のたもとに着くとそこには衛兵の詰め所が設けられており、
クリーム色のスカーフを頭全体に巻きつけた男四人が建物内部の石のベンチに腰掛けていた。
「私が対応するから。」
ここでの通関手続きをパスしないと街の中には入れない。
ここは慣れているアリスが代表を買ってでた。
目の部分以外を覆い隠した兵士達の顔は得体の知れないオーラを放っていたが、
意外なことにその仕事ぶりは精彩に欠けており、ラクダに括ってある麻袋の中身を一つだけチェックすると
「通っていいぞ」と一言だけ言って、元居たベンチにまた腰をおろす。
「あっさりしているな。手荷物検査でもするのかと思った。」
「いつもあんな感じさ。」
武器を携帯しているキャロルですらノーチェックである。
もっとも俺達は街に銀を届ける立場なので、歓迎こそされど、その警戒度は特別低いのかもしれない。
「それでこれからの予定はどうなっている?」
レンガのアーチを潜り一行は徒歩でラクダを連れる。
「まずはこの銀を納品しないとね。
次にラクダを預けて、明日持ち帰る予定の果物を市場で仕入れて、今日の仕事は終わりかな。」
指を折々アリスが答えた。
「市場か。
そこでならカツカレーを作る材料が全て揃うかもしれないな。」
この世界の地理をまだ把握していないが、この都市は首都にあたる場所なので、
俺がアクセスできる範囲でここが最も食材が充実していると考えていい。
「料理をするつもりなんだろ?
私は見識がとても広いから味見なら任せてくれ。」
キャロルは様々な土地を渡り歩いた経験があるみたいなので、味見役として確かに適役かも。
「あーようやくカツカレーが食べられるのね。
料理はやっぱり実物。言葉ばかりを並べたてられても空しいだけだわ。」
「よだれを垂らしているところ申し訳ないが、カツカレーが完成するかはちょっと分からないぞ。
材料次第では肉じゃがになるかも。」
銀を納品する場所は鍛冶場街にあるらしく、早朝だというのにハンマーを叩く音や、
金属を研磨する際に響くあの独特なうなり音が、通りに面した作業場から途切れることなく聞こえてくる。
この地区は職人達の為に作られた世界らしい。
「おお!これは水路じゃないか!」
ちゃぽちゃぽと懐かしいせせらぎが耳障りな音の中に混じっているなと思ったら、道路に沿う形でそれは設けられていた。
「うげ、すげー汚い。
公害病待ったなしだな。」
喜び勇んで駆け寄りそこをのぞきこむと、取水と排水の分離はどうやらなされていないらしく、
その水質は最悪だった。
「街の北側に山脈が走っていて、小麦を育てるためにその水脈をここまで引っ張ったって話だね。」
人間は自然を超越するのね。とアリスが解説する。
「キレイな水なら今頃飛び込んでいたんだけどなー
身体がべたべたしてもう我慢できない。」
サイケデリックな水面に浮かぶ油を眺めながら言う。鍛冶の仕事のなかで投棄されたものだろう。
「今晩お世話になる修道場は有名なお風呂があるから期待していて。」
「本当に?もう濡れたタオルで体を拭くだけの生活にはこりごりなんだ。
日本人ならやはり湯船に浸かって、そこでしばらくボッーとやりたい。」
タフィーのお風呂事情は最悪だ。水が不足しているの、大量の水を沸かすだけの燃料がないのか?
理由は分からないが水を浸した布切れでいつも我慢する日々が続いている。
「湯船?
たぶん山田がイメージしているお風呂とは違うものかも。」




