第八回 タクシーに乗る
「真鶴って電車で来ても、遊びづらくて。観光は半島と漁港で、どっちも同じバスで行くことになってるし」
俺のタクシーに乗ってくかい、と荒井さんに誘われるがまま乗り込んだ。
半島とは真鶴半島のことらしい。
神奈川県の地図がおぼろげながら頭に浮かんだ。伊豆半島の手前に、小さな突起があったような気がする。ほとんど静岡県だ。ずいぶん遠くまで来たものだ。
「お姉さん、東京から? そんな感じだよね。俺は武蔵小杉。知ってる?」
荒井さんの話に寄ると、今流行の『田舎へ移住』組らしい。
移住が流行っているなんて知らなかった。帰ってこないわたしの両親も、時流に乗っただけなのだろうか。
「高層マンションが建つ時に引っ越して。地元じゃないけど大抵のことは知ってる」
タクシーはバスと同じく、定食屋と干物屋の間を走り抜ける。
「この上に城址公園があって、花見なんかのイベント時は楽しくて。でも商店街はほとんどシャッター街だ。でも若い人が色々考えてくれて、アートの町真鶴って、今盛り上がってるんだわ」
シャッターが降りた店と開いている店が、交互に続く。
二股に分かれた交差点の信号でタクシーは止まった。
「山側と海側で道はここで二手に分かれる。バスは海岸線を走るから、山側は車でないと行かれない。海側へ下る道には唯一のコンビニがある」
荒井さんの観光案内は止まらない。わたしに相づち一つ打たせなかった。
唯一のコンビニに寄りたかったが、タクシーは坂道を登って行く。山側の道を行くようだ。





