24/26
第二十四回 バースデーシャンパン
誕生日だった。今の今まで忘れていた。
それならそうと言って下さい、とマスターが大きなボトルを持ってきた。客が置いていったシャンパンらしい。
マスターは、シャンパンのボトルの口をまさぐっていた。シャンパンはポンという小気味良い音をたてるだろう。限界まで張っていた何かが音と共に破裂するに違いない。
開けているマスターに思いと力を重ねる。
「祝ってくれる友達も彼氏もいなくて、気づいたら、ここにいました」
期待した大きな音が、わたしの呟きに賛同するように鳴った。
友達も彼氏もいないことが目出たいことのように聞こえる。余計に泣きたくなった。
わたしよりも、シャンパンを開けていたマスターの方が音に驚いている。
シャンパンは勢い良く口から溢れ出た。
おっとグラスグラス、と両手をシャンパンだらけにしているマスターは楽しそうだった。
「飲み屋やってても、シャンパンを開ける時に失敗したりする。でも僕は気にしない。だって楽しいじゃん」
グラスの中で泡も踊っている。破裂して欲しかったのにわたしは割れない風船だ。
小さな泡がグラスの中で立ち上る姿は、海を連想させる。海に飛び込んでしまえばよかった。
飛べずに目をそらした脆いわたしは、今またシャンパンの海からも目をそらす。





