第二十三回 ゴールドラム
「たまには変わったことをしよう」
マスターは、ショットグラスにラム酒を注いだ。
モヒートに使った透明なラム酒ではなく、ほんのり色づいて、金色に輝いている。
いつもは店では飲まない、と言い訳をしてから一息で飲み干し、わたしにも一杯くれた。
「ゴールドラムだ」
ラム酒ストレートはきつかった。わたしが負け犬だから、一層きつく感じるのかもしれない。
顔をしかめるわたしがおかしいのか、マスターは笑った。
「人生は確かに色々ある。だが、その起こった事柄に右往左往しては駄目だ。いいか。人生は暇つぶしだ。暇をつぶしながら生きていく、って意味じゃない。死んだ後の方が本当の意味での人生で、それまでは何をしていたっていい。つまり、産まれてから死ぬまでの時間全てが、暇つぶしそのものなんだ」
ラム酒がまわってきたのか、マスターの言葉が理解できなかった。
死んだら終わりで、死ぬまでが人生じゃないのか。
「人は魂と肉体に分けられる。魂は肉体が滅んでも存在する。肉体は仮の姿で、魂が肉体を持つことで経験する時間が、人生ってことだ。つまり、人が一日の中で、起きている時間を様々なことで埋めるけど、魂にとっては、人として生きている時間がそれに当たる」
魂論を語るマスターは、生き生きしていたが、うさんくさいスピリチュアルにしか聞こえない。口説こうとしているでもなく持論を披露したいだけのようだ。
「よくわからない。それって、何をやってもいいということですか。人を、殺してもいい、盗んでもいいってことですか」
「犯罪、したいんですか」
正面から受け止められた。
犯罪をしたい訳じゃない。
罪を犯しても救われない。
「僕が言いたいのは、勝ち負けのゲームだからと片意地はって右往左往しなくてもいい、ということ。暇つぶしだと思えば、好きなことや、やりたいと思うことを色々試してみよう、という気持ちにもなれるでしょう。その方が楽でしょう」
やりたいこと。
ふと今、言いたくなった。
「わたし、今日、誕生日だったんです」





