第二回 傷もの
「本庄何やってんだ。頼むよ。難しくないだろ。リストの済んだところにはチェックを入れる。数値がおかしければすぐにわかるだろ」
上司の鼻をすする姿に、やれやれと思った。ストレスなのか、慢性の鼻炎なのかは知らない。鼻をかむ時には話が続くがすすった時は話が終わる。逆のような気もするが、鼻をかむとすっきりして態勢が整うらしい。
地震の後、倉庫番だった会社を辞めた。桂と別れて傷心だったわたしは家から出られなかった。働かなければと重い腰をあげても紹介されるのは倉庫番ばかり。百歩譲って、就職を決めた通販会社でも在庫管理を任せられる始末である。
在庫のチェック漏れは、わたしの責任であるが、もともと間違えたのは該当ブロックの担当者だ。わたしではない。わたしだけが起こられるのは理不尽である。
いつの頃からか、ことが起きると悪いのはわたしと決めつけられるようになった。ついていない人生はやはり、終わらないのだと思うとため息しかでない。ため息が油を注ぐ結果となった。
「見た目ばかり気にして。大学で何を学んできた。男遊びしかしなかったんじゃないのか」
終わるはずの小言が終わらない。返す言葉もなく捨てられたティッシュの山を見やる。黙っていることが上司を一層増長させた。
「所詮傷物だからな、本庄は」
顔の左半分を隠すように下を向いた。上司の顔が浮かぶ。
わたしの顔には傷がある。毎朝化粧をするたび、傷つく。大事な人を傷つけた代償だ。誰に何を言われても仕方ないと思っている。理不尽であっても、わたしには反論する資格がない。
「ぶー、アウト」
甲高い声が響いた。最近入ってきた若い女の子だ。アニメ声というのだろうか。頭の中で反響する奇妙な声が苦手で避けていた。
「それ以上は、ハラスメントで報告されますよ、誰かに」
ヒーローのようにきっぱりしていた。
「本庄さん、しっかりしてください。相手がいい気になりますから」
名前のわからない彼女が、ショートヘアを揺らしつつ去る姿を黙って見送った。





