第一回 地震と自信
決して大きくはなかった。わたしが立っていられたのだから。
はじめに、ずんっという震動を感じた。自分のいる場所が安全かどうか、確認しようと見回す。
キングファイルを持って立っていたのは、天井まで続く書架の間だった。段ボールやキングファイルがびっしりと詰まった書架だ。大きな揺れが来れば、わたしは無事ではないだろう。
命を守れないかもしれない。
頭に浮かんだ言葉は、わたしを安心させた。キングファイルに埋もれて終わるのだ。もう頑張らなくていい。自然と笑みがこぼれる。
ぐらぐらと、立っていられないような大きな揺れが来るのを待った。書架から落ちてくるのは、段ボールが先かもしれない。段ボールの角とキングファイルの角が、交互に頭を攻撃してきたらおそらくわたしは気を失う。顔に向かってきたら傷になるだろうか。眼に当たったとしても失明するくらいだ。命にはかすりもしないだろう。いっそのこと段ボールの中に、カッターナイフを仕込んでおけばよかった。頭の中にカッターナイフの映像が浮かんだ途端、体が震え出す。無理だ。触ることもできないのだ。
わたしはいつも準備が足りない。事が起きてから振り返ることしか出来ない。
とにかく物が落ちてくることを待とうと、首にかけている、金製のりんごのペンダントを強く握った。
頭も顔も守るつもりはない。さあこい。いつでも、こい。物が落ちてくるばかりではないだろう。揺れた書架がバランスを崩し、わたしを挟み込むかもしれない。胸を押しつぶされ、衝撃で呼吸が止まる。期待は高まる。頼れるヒーローのように書架を見上げた。
確かに揺れたが、はじめの震動に比べるとずっと小さかった。書架はギシギシと鳴ったものの、動くどころか、何一つ、落としてこない。世界は揺れる前と全く変わらない。わたしは書架の間に、キングファイルを持ったまま、突っ立っているだけだった。失望した。単純に失望した。何も変わらない。何も終わらない。わたしは今までと変わらず、書類整理を続けなくてはならない。自分自身で決めない限り、人生は終わらない。いつでも終わりにしてくれてもいいのに、誰も終わりにしてくれない。終わりがないと気づいてめまいがした。
揺れは震度二ぐらいだったが、わたしの心の中は震度七だったと思う。彼を失い、望みを失い、死ぬこともできない。逃げよう。できることは逃避だけだ。逃げた先に何かがあるだろうか。





