第十九回 鹿肉
初めての鹿肉は山の命の匂いがした。
噛めば噛む程、強い精力を感じる。強すぎてめまいがした。
わたしの知っているコロッケとは全く別物だ。世界は知らないこと、わからないことばかりである。
「彼はわたしにモデルになれって言った。自分の作品のモデルに。言われた場所に行くと、全裸にさせられ、くまなくサイズを取られ、形を取られた。性的なサービスをさせられると思ったんだけど、そうではなくて、ただ型を取りたかっただけだった。彼はわたしを作成した。わたしとサイズが全く同じ、人形を」
彼はストーカーとして崇拝しているから、手を出すつもりはなかったのだろう。自分専用のわたしが欲しかったのかもしれない。
わたしは操を守ることが出来たけれど、わたしという存在を守ることは出来なかった。造られた人形のわたしが、何をさせられるのかは知らない。
女王として、キャンペーンガールの仕事をしながら、人形のわたしのことを思った。わたしが二人に増え、もう片方が嫌なことを引き受けてくれている。罪悪感と快感、自責と幸福、両極端な気持ちがわたしの中に混在した。
「それで男に不信感を抱いて、ここに来たのか。美人も大変だ」
マスターが、分かったような表情を浮かべて頷いている。
違う。全然違う。わたしは違う。
わたしは、ストーカーの人形の片割れとなったことで、解放されたのだ。
わたしは、生まれた時から美しい人形だったけれど、人形としての存在はストーカーの人形が引き受けてくれた。自分を枠に入れないですむ。なんという幸福感だろう。
キャンペーンガールの仕事をしつつ、男と遊んだ。以前のわたしでは考えられない。
誘いは全て乗った。
人形が一人の男の相手をするなら、わたしは不特定多数を相手にする。
片方のわたしと違うことをすることで、存在意義を見出したかったのかもしれない。





