第十七回 ゴールデンアップル
ニャアという声がする。続けざまに何度も聞こえて目を開けた。
海猫かと思ったら黒い猫だった。荒井さんが言っていた、漁港へ現れる猫なのか。
猫はわたしを睨んでいた。タクシーの中から見かけた黒猫に、似ている気がする。
怖くなって海からも猫からも後ずさりした。
店に新しい客は来ていない。マスターとわたしだけだ。
「仕事、何してるの。モデル?」
マスターは、わたしが傷物であることを知らない。怒っても仕方のないことだ。
努めて気にしないようにする。
「ペンダント素敵だね」
マスターが、金製のりんごのペンダントを指した。ゴールデンアップル。わたしにとって輝かしい時代であり、忌まわしい記憶だ。
夜は長い。朝まで時間がある。
「聞いてくれますか」
今のわたしを作ったのは、ゴールデンアップル、大学のミスコンだ。
在学生の投票で上位十名が、学祭のステージに立って美を競い合う。
審査員はゴールデンアップルを見にきた観客全員だ。上位三名まで絞られると観客の中からランダムに一人が選ばれ、最終審査員となる。最終審査員は、三名それぞれからの自己アピールを受け、一番の美女、女王を選ぶ。女子大生の自己アピールだ。優勝させてくれたらデートをしてあげる、もしくは彼女になってあげる、という駆け引きが大半だ。
女王になれば、一年間ある企業のキャンペーンガールに就任する。卒業後は大半がモデルへの道を進んだ。大学には毎年女王を狙うモデルや、タレント志望の女の子が多数入学し彼女たち目当ての男子も多数入学する。
人形みたいで可愛い、と言われて育ってきたわたしだ。
モデル志望ではないが、女王になれると信じていた。入学後沢山の綺麗な子に会い、世間知らずな自分に気づく。わたしでも女王になれるかもしれないという、甘い考えは消えた。





