12/26
第十二回 カフェ
階段は二手に別れており、荒井さんは左に折れる。広いテラス席のあるカフェが現れた。
「ここに座って待ってて」
水平線が見えるテーブルに一人残された。
海が呼んでいる気がする。海に近づきたい、中に入りたいと心は望んでいたが、三ツ石に遮られている。
三ツ石はわたしの本意に気づいている、と思った。
海から目をそらす。
駄目だ。
このまま帰ろう。バスに乗れなくても歩けばいつかは駅につく。
逃げだそうとした時に荒井さんが戻ってきた。
「ほらほら座って座って。何があったか知らないけど、美味しいものを食べれば、気持ちも落ち着くから」
言葉が終わるや否や、カレーが運ばれてきた。心踊る匂いは潮の香りと相まって、桂との最後のデートを思い出させる。
桂はシーフードカレーが好きだった。桂のことを思い出したくないのに思い出すのは、どうしてなのだろう。彼に対する未練という甘いものではない。嫌な瞬間の気持ちを甦らせることで何度も奈落の底を味わう。心が冷えきって、感情がなくなるまで続けているのだ。冷えた心なら一人でも生きられるから。まるでドラッグ中毒だ。





