↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハッピーバースデー  作者: 松本あおい
PR
10/26

第十回 お林

 今まで見えていた緑や家々は途切れ、海が見えてきた。電車の中から見た海とは色が違うように見える。いい色だ。

 窓を開けてみた。心地よい風が潮の香りを纏って吹き込む。髪が風で揺れた。慌てて左ほほを隠す。荒井さんに見られただろうか。ごまかすように咳をした。

 顔を手で隠しながら海を眺め入る。波音も大きく聞こえる。寄せては返す音はまるで呼吸しているようだ。海が生きていて、わたしに呼びかけている。海に近づいていると思うだけで心がざわつく。

 ゴシック調の白亜の御殿が見えてきた。四階建てだろうか。人の気配はないが、大きな建物だ。きっとホテルに違いない。

 ホテルの隣にはガラス張りの、有名建築家デザイン風レストランがあった。車が止めてあり人の出入りがあるようだ。


「ホテルやお洒落なレストランもあるけど、自家用車じゃないと行きづらくて。景色は最高だけど、街灯も少ないから夜は真っ暗になる。この後、海はしばらくお預けだ」


 荒井さんの言葉通り、海は姿を消し、うっそうとした森が続く。


「この辺ではお林って言って、原生林なんだ」


 原生林と聞いて思い浮かんだのは樹海だ。昼でも暗く、地上には光を嫌う生き物たちがうごめく。生きていないものも混じっているかもしれないとも思う。


「真鶴の全ての生き物の源かな。このお林があるからこそ、皆生きている、というのかな。大事な存在でね。真鶴の命そのもの」


 お林。

 林におが付いているくらいだから、本当に大事にされているのだろう。木立の奥に、見えない生き物たちの息づかいが、聞こえる気がした。

 樹海のようなものだろうか、というわたしの問いに荒井さんは笑った。


「そんなたいそうな物じゃなくて、迷子も死者もいないから。だいたいここまで来る人は海が目当て。昔はサボテンランドがあったそうだ。俺が来た時にはもう展望公園だったけど」


 真鶴には一点の曇りもないらしい。

 荒井さんの言葉に合わせたかのように、広い芝生と建物が見えてきた。展望台だろうか。


「展望台じゃなくて博物館。カフェテリアもあるけれど、俺のおすすめはこの先。ランチを一緒に食べないか」


 急に空腹を感じる。朝から何も食べていなかった。心は揺れたが知らない人と食事する程社交的ではない。一人でゆっくりしたい。

 断ろうとするも、既に荒井さんは博物館の奥へと消えかけていた。急いで後を追う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。