第五章その3
大地とその友達五人は深々と頭を下げた。
「それじゃあみんな、これから状況を説明するね」
そして彼女である美紀は一通り説明すると、女子の一人が恐る恐る手を挙げた。
「あ、あの……肥後高校から来た森下雪江です。実はあたし……米島君と同じ中学でした。と言っても、会話とかはあまりなかったんですけど……彼、当時同じクラスの……鈴木良一君に……いじめられていました!」
大人しそうな黒髪お下げにアンダーリム眼鏡の森下雪江は意を決した表情で説明した。彼女は知ってる限りのことを話す。日常的に暴力を振るい、嫌がることを強要されたこと、クラスメイトの前で辱められたことを、次第に彼女は耐えられなかったのか、その場で泣き崩れた。
「ごめんなさい……あなたたちの……大切な、大切な友達が……傷つけられてるのを、見て見ぬフリをして……本当に……ごめんなさい!」
「雪江ちゃん、もういいのよ」
隣にいた友達が慰めると岡本が歩み寄ってしゃがみ、優しく声をかける。
「もういいんだよ。君が勇気を出して話してくれたんだ……いじめっ子の中には平気で女の子をいじめる奴もいるからな。ありがとな」
岡本がハッキリ礼を言うと森下はコクリと肯き、美紀はリングノートタイプのホワイトボードを広げて書き込むと大地は訊いた。
「笹本滝雄、菊本恭平……更に追加して鈴木良一の三人、些細なものや噂程度の情報でもいい、何か情報はないか?」
すると男子の一人が手を挙げた、さっき一緒に頭を下げて泣いてる森下を慰めてる岡本で大地は訊いた。
「岡本、知ってるのか?」
「ああ、知ってるも何も……鈴木良一とは同じ学校だ。隣のクラスで体育の時間は合同で一緒にやるんだ……見た限り悪い奴じゃなさそうだったから正直びっくりしてる」
それでみんながざわつきながらも、次々と三人の情報を出してきた。みんなが葵や米島君のために力を貸してくれてる、そう思っていた時にスマートフォンが震えた。
『笹本君から明日、日帰りで遊びに行こうって』
「葵から連絡あり! 明日笹本と日帰りで遊びに行こうって誘われたわ!」
睦美は手を挙げて立ち上がって言うと、みんな更にざわついた。睦美は詳しく教えるように返信する。
「行っては駄目! 脅すような奴よ、絶対人に言えないようなことされて更にそれを脅しのネタにされるわ!」「でももし断ったらこっちの動きがバレる! 泳がせた方がいいんじゃ?」「待て待て、その草原さんを危険に晒す気か? その笹本って奴ヤリチンって噂だぞ」「じゃあどうすればいい? 俺たちで尾行するか?」
みんなが意見が飛び交うし中、睦美は自分に今何ができるのか? そう考えて手を挙げた。
「あの! 皆さん! 私が同行するわ、葵の傍にいて私が守るわ!」
部屋の中がしんと静まり返ると、眼鏡をかけて痩せた古典的なオタクっぽい男子が手を挙げた。
「あのー……肥後工業高校の河野信雄と申しますけど……うちらで持ってるFMラジオマイク――つまり盗聴器とリアルタイムGPS発信機が役に立つかもしれません」
なるほどこれならリアルタイムで追跡できるし、万が一に備えて人を待機させることもできる。すると一七五センチくらいで体格のいいショートカットの女子が手を挙げた。
「それなら! 九品寺高校から来ました小倉由香です! あたしが草原さんや花崎さんとご一緒します! 自慢じゃないですけど……小さい頃から空手やってて黒帯なんです。インターハイでベスト4まで行ったことがあります、万が一の時に役に立つかもしれません!」
空手の有段者、小倉由香の存在はありがたい。これにはみんな「おおーっ!!」と唸ると、小倉は少し恥かしそうにモジモジする。
「で、でもあたし……体格大きいし、可愛くないし……」
「大丈夫! メイクアップアーティスト志望のあたしが化粧して可愛くしてあげる!」
美紀がそう言うと小倉は照れ臭そうに「よ、よろしくね」と肯く、すぐに大地は部屋を見回しながら言った。
「よし! 草原と一緒に行く小倉と花崎に加えて万が一に備え、いつでも介入できる追跡班! ここに残って情報の収集、整理、分析、処理する情報班に分かれて行う! 花崎、今草原が置かれてる状況だが……涼には伏せておいてくれ!」
「ええ、わかったわ!」
すると睦美のスマートフォンが震えて返事が来た。すぐに取り出すと一斉にみんなが注目する。
「えっと……読み上げるわ! 笹本君と菊本君、それから鈴木君と三人、日帰り……新幹線で鹿児島に出かける! 明日の朝八時に熊本駅に集合って! えっと……あたしともう一人連れ来ていい? って訊いて……っと」
睦美はすぐさま送信すると、また一人手を挙げた。河野の隣にいて眠そうな目付きに無愛想な感じの小太りな男子がゆったりのんびりした口調だった。
「河野君と同じ肥後工業高校の足立一馬です……自分鉄道オタクだけど……新幹線で熊本からなら鹿児島中央まで所要時間は一時間ちょっと。割引はないと考えて一人に付き片道だけで六九四〇円、往復すると一三八八〇円……バイトしててもこの出費はキツイと思う、同行は厳しいかも」
なるほど私と小倉さんが実費で同行すれば二七七六〇円と痛い出費だ、同行させてくれるとは思えない。睦美は頭を抱えたくなる気分で、大地は足立に訊いた。
「足立君、安い在来線やバスを使うルートはある?」
「えっと熊本駅で鹿児島中央間だと鹿児島本線や肥薩おれんじ鉄道使って四時間、片道四三〇〇円、バスを使っても最低三時間以上はかかるかなぁ」
足立はまるで他人事のように頭をポリポリと掻きながら言う。追い討ちをかけるように返事が来ると「新幹線代、往復自前ならいいよだって、因みにあたしの分は出すって」と感づかれてる可能性もある。
とりあえず睦美は自前で出すと送信した。
「しかたないわ……貯金、切り崩さないと駄目ね」
睦美は溜息吐くと、美紀はワクワクした表情で言う。
「よーし、みんなこれから始めるわよ! エーデルワイス作戦を!!」
葵の貞操と人生の危機なのに、こんなときでも楽しむなんて随分と図太い神経ね、と睦美は呆れながらが訊く。
「エーデルワイス作戦?」
「そうよ! 大人たちに頼らずに自分たちで何かやるって、なんだか楽しくない? そりゃ責任重大だけどさ!」
みんな頭の上に「?」のマークを浮かべて大地もさすがに苦笑していた。
翌日の日帰りツアーは睦美と小倉さんの努力、それから追跡班も自腹を切って遠征した結果無事に終わったが、睦美によれば夏休みの終わりには江津湖花火大会は二人でデートしようと半ば強引に約束されたという。
そのタイムリミットは約二週間、睦美の家を拠点にし、睦美と小倉は葵を守りながら三人から情報を引き出して行き、大地は涼の見舞いと説得をしながら入ってくる情報を収集、整理、分析、処理してみんなにも聞えるように張りのある声で言う。
「岡本、笹本の中学はどうやら鹿児島だ。草原たちが仕入れた情報だが、中学卒業と同時にこっちに引っ越してきたらしい」
「中学卒業と同時に引越し? そうかこの前の日帰り旅行は里帰りだったんだな、どこ中かは訊いたか?」
「いや、そこまでは教えてくれなかった。花崎や小倉もあっちで会った笹本の友達によればかなりヤンチャ――色々問題起こしてたらしい」
岡本が仕入れた情報がびっしり書かれたノートを見ながら整理していると、女子の一人――肥後商業高校の倉内加奈子が手を挙げる。
「それなら! 私中学の時にバドミントンやってたんだけど、部活の試合で対戦した鹿児島の子がいるからその人に頼んでみるよ!」
「わかった! 頼む!」
大地はこの時、些細な情報だけでもと縋るように思っていた。因みに菊本と鈴木の情報を集めると数々の悪行が明らかになり、みんなからの報告を纏めると次の通り。
まず鈴木良一だが表向きは優等生と言えないが、ノリのいい性格で誰とでも分け隔てなく接するクラスの人気者だという。事実、交友関係はかなり広いが敵も多く、涼をいじめてたということが発覚して大地たちを敵に回したことで更に増えたが。鈴木を快く思ってない人間は複数いたためその人たちと接触し、合流している。
表には出てないが鈴木は城下高校でも陰湿ないじめをやっていて、それこそ涼にしたことを同じようにやっていたという。大地と岡本たち小学生時代のみんなは全員一致で暴露し、それ以上に酷い目に遭わせてやろうと決めた。
次に菊本恭平だが、鈴木や笹本と仲がいいのはわかったが特に目立った悪行はない。小学校は同じで中学は別だったがよく遊んでたという。だが一つ、嫌な情報があった。中学校の三年間、周りのクラスメイトたちの友人関係や家庭が崩壊したり、卒業までに担任が六回変わったりしてる。
そういえば高校に入ってからも大地のクラスではないが、周囲のクラスで複数の女子生徒が妊娠して付き合ってた男子もろとも退学になったり、一年前は四組のクラスの担任が教え子と関係を持ってたことが発覚して新聞沙汰になった。まだ確定してないが、あいつは疫病神なのかもしれない。




