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✩ 星編みの魔法使い ✩  作者: 七瀬朔
第一章

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第30話 見習いの理由

 有紗は不思議そうに瞬いたあと、再び鉢植えへ視線を戻した。


「でも……やっぱり……」

「今度は何だ」

「星を置いて繋ぐ分、普通の魔法の方が速いよね」

「まあ、ただ攻撃するだけならな」

「同時にやってみる」

「待て。何を――」


 有紗が両手を持ち上げた。


 右手の指先に白金色の星が灯る。

 左手の指先には、小さな火球。


 二つの魔法が、ほとんど同時に生まれた。


 だが、火球が完成した時、右手の星はまだ机の端へ置かれたばかりだった。

 そこから細い繋がりが伸び、白金色から赤へ変わる。


「……やっぱり、火の方が速い」


 有紗はそのまま両手の指を振った。


 右手では星を置き、繋ぎ、赤くする。

 左手では火球を消し、小さな氷の粒を生む。


 次は赤い繋がりと火球。

 その次は青い繋がりと氷。


 両手の指先から、異なる魔法が次々と生まれては消えていく。


「色を変えるのを、もう少し早くすれば……」

「最初から赤い糸を出すって決めときゃ同時じゃねーの?」


 有紗の指が止まった。


「……最初から?」

「お前、さっき自分で、星を置くのと繋ぐのは同時だって言ったよな」

「言ったけど……」

「だったら、熱を流すって決めた状態で繋げばいいだろ」

「でも、赤い糸は――」

「糸じゃねえんだろ?!」

「……そうだった」

「自分で説明したこと忘れんな!」


 有紗は右手に残る白金色の光を見つめる。


「星を置く時に、何を流すかまで決めておけば……」

「最初から全部一緒にできんじゃねえのか」

「……できるかもしれない」


 ぱっと、有紗の目が輝いた。


「シャロウ、すごい……!」

「つーか、その大道芸みたいなの止めろ!」

「大道芸じゃないよ。比べてたの」

「火と氷と星を両手で連発しながら悩むな!」

「同時にしないと、速さが分からないでしょう?」

「もう分かった! 机が凍って、その隣が焦げてんだよ!」


 言われて、有紗は机を見た。


挿絵(By みてみん)


「……本当だ」

「今気づいたのかよ!」


 有紗は指先を振り、残っていた火と氷を消した。


「……待て。お前、今までに何発出した?」

「数えてないよ」

「疲れてねえのか?」

「全然。もっといっぱい出せるよ」


 有紗は自分の足の指へ視線を落とした。


「やめろ」

「まだ何もしてないよ?」

「考えるな」


 有紗は少し不満そうにしながら、指先を振った。


 残っていた火と氷、それから白金色の光の粒が、さらさらと空中へ解けて消えていく。


 シャロウは焦げ跡のついた机と、青々と茂った鉢植えを見比べた。


 赤は熱。

 青は冷気。

 緑は傷を塞ぎ、植物を育てた。


 ――なら、黒は。


 脳裏に、リュシアンの黒紫の炎と、森で見た首輪が浮かぶ。


 シャロウは有紗へ目を向けた。

 口にすれば、たぶん試す。


「……なんで見習いなんだよ」


「星を、まだちゃんと結べないから……」

「さっきから十分できてんだろ?」

「これは、星を置いて繋いでるだけなの。結んではいないよ」

「違うのか?」

「全然違うよ」


 有紗は両手の指を重ねた。


「星を結ぶ時は、星と星の間に通すものが必要なの」

「さっきの繋がりじゃねえのか」

「それだけじゃ足りないの」

「じゃあ、何を通す」

「私が覚えてること」

「……思い出か?」

「思い出とか、経験したこと。見たことや、嬉しかったこと、怖かったこと……誰かと一緒にしたことも」


 有紗は言葉を探すように、指先を宙で動かした。


「知ってるだけじゃ駄目なの。私が本当に経験して、その時に感じたことじゃないと、星は結べないの」

「それで完成すると?」

「空へ返るよ」

「返る?」

「結び上がった星は空へ昇って、新しい星になるの」


 有紗は窓の向こうを見た。


「もっと上手になれば、空の星を繋いで、大きな術式を作れるよ」

「どのくらい大きな」

「街を覆うくらい」

「……お前、最終的に何する魔法なんだ」

「空いっぱいに、星を編むの」


 有紗は当然のように答えた。


「でも、まだ一つもちゃんと結べないから、見習いなの」

「経験したことが材料なんだろ?」

「うん」

「だったら、ここに閉じ籠もってたら増えねえじゃねえか」


 有紗が瞬きをした。


「……そうなのかな」


 有紗は、自分の両手を見つめた。


 覚えるべき術式が足りないのだと思っていた。

 もっと正確に、もっと上手に魔力を扱えれば、いつか編めるようになるのだと。


「外に出ることも……練習になるの?」

「むしろ、それが練習なんじゃねえのか」

「たぶん……」

「たぶんで街ひとつ覆う話すんな」

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