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✩ 星編みの魔法使い ✩  作者: 七瀬朔
第一章

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第17話 猫を探して、人を拾う

「レア様?」


 有紗が聞き返すと、青年の紫色の瞳がゆっくりと揺れた。


 遠い場所を見ていた視線が、ようやく目の前の有紗へ戻ってくる。


 自分がその手を強く握り締めていることに気づき、青年は僅かに指を緩めた。


「……失礼いたしました。人違いです」


「そうなの?」


「はい」


 青年は有紗の手を離し、壁へ手をついて立ち上がろうとした。


 だが、指先が離れた途端、顔から再び血の気が引く。


 膝が崩れ、その身体が大きく傾いた。


「危ない!」


 有紗が咄嗟に腕を掴む。


 触れた場所から白金色の光が広がると、青年の強張っていた呼吸が僅かに緩んだ。


「やっぱり、まだ痛いの?」


「……先ほどよりは、随分と」


 青年は有紗に掴まれた腕を見下ろした。


「どうやら、あなたに触れている間だけ、痛みが和らぐようです」


「手を握っていればいいの?」


「それだけでも。ただ――」


 青年は少し考え、慎重に言葉を選んだ。


「触れている場所が広い方が、より楽になるように思います。先ほどは、手だけではなく腕まで触れていましたので」


 シャロウの眉間に、深い皺が寄った。


「随分と都合のいい症状だな」


「私も、そう聞こえるだろうとは思います」


「否定しねえのかよ」


「事実を申し上げただけですので」


 青年は穏やかに答えたが、まだ有紗に支えられていなければ立っていられないらしい。


「そういえば、お名前を聞いていませんでした」


「申し遅れました」


 青年は姿勢を整えようとして、僅かによろめいた。


「リュシアンと申します」


「リュシアンさん」


 有紗は確かめるように、その名を繰り返した。


「私は有紗。こっちはシャロウ」


「シャロウさんのお名前は、先ほどから何度か伺っております」


「誰が何度も呼んだんだよ」


「私かな?」


「お前以外にいねえだろ」


 有紗は納得したように頷くと、腕の中のルゥを抱き直した。


「私たち、ルゥを薬舗へ連れて帰るところなの。リュシアンさんも一緒に行こう?」


「ですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」


 リュシアンは有紗から離れようとした。


 だが、触れ合う場所が減った途端、呼吸が僅かに乱れる。


「やっぱり、まだ痛いんでしょう?」


「……触れている間は、随分と楽になるようです」


 有紗は空いている側の肩を、リュシアンへ向けた。


「じゃあ、ここにつかまって」


「しかし――」


「薬舗までだから。ね?」


 リュシアンは僅かにためらったあと、有紗の肩へ右腕を回した。


 身体が近づくと、浅かった呼吸が少しずつ整っていく。


 黒紫色の長い髪が、有紗の肩へさらりと落ちた。


「……随分、楽になりました」


「近すぎねえか?」

「離れたら、また痛くなるよ」

「……分かってる」


シャロウはリュシアンを一度じろりと見た。


挿絵(By みてみん)


「薬舗までだぞ。途中で無理になったら、黙って倒れずに言え」


「承知しました」


 シャロウは先に倉庫の出口へ向かった。


 その後ろを、ルゥを抱いた有紗と、有紗の肩へ身を預けたリュシアンが、ゆっくりと歩き始めた。

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