↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくアバターの姿で転生したのに異世界の連中がやけに強い。  作者: モノノキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/35

第31話 上限

モヨモトの家を出ると、朝の空気はまだ夜の名残を薄く纏っていた。市場通りへ向かう道すがら、兵士たちの話し声が、アルクの耳を掠める。


「ガルド様かミレア様のどちらかが率いて行くらしい」

「最初は西の大戦跡地に行くって話だ。中堅もベテランも関係なく駆り出されるってよ。訓練迷宮でやったようなレベル上げだな」

「ああ。ガルド様かミレア様がいれば安心して出来る」


巡回している兵士たちの何気ないやり取り。アルクは足を止めず、耳だけをそちらへ傾ける。

どうやらこれから定期的にレベリングを行うことになるらしい。


(あー、インセクト種の件があったからか?俺もそのうち行くことになるんかね)


内心で呟きながら、アルクは東側の冒険者ギルドへ足を向けた。特に用があるわけではない。ミナがいれば魔法訓練にでも行こうかという、気まぐれな寄り道だった。


木造の建物に入ると、いつもの若い女性職員がカウンターにいる。


「あれ、ミナはいねぇか?」


「あ、アルクさん。ミナさんは今日依頼で出てますよ。伝言でも?」


「あーいや大丈夫だ。ありがとな」


ギルドを出ると、ふと手持ち無沙汰な感覚が肩に乗った。


「んー、一人で行くか。その前に、あれだな」


呟きながら、アルクは中央区画へと足を向けた。



中央区画の坂道を上ったところに、以前から気になっていた書店があった。木製の看板には、開いた本の意匠が彫り込まれている。


「よぉ」


軽く声をかけて入ると、棚の奥から店主らしき老人が顔を出した。丸眼鏡の奥の目が、値踏みするようにアルクを一瞥する。


「本を探してるのか?」


「ああ、魔法の基礎から学べるやつが欲しいんだが」


「初心者向けか。なら、これがいい」


老人は棚から一冊を抜き取り、カウンターへ置いた。表紙には魔法鍛錬初級と、簡素な文字が刻まれている。


「型の解説だけじゃなく、よくある失敗の例まで載ってる。若いのがつまずきやすいところを、先に教えといてくれる本だ」


「へぇ、親切だな」


「ああ、銀貨二枚だ」


「一枚半にしてくれ」


「駄目だ。銀貨二枚」


にべもない答えに、アルクは苦笑しながら小さな革袋を取り出した。老人の頑固さが、逆に信頼できるような気がした。


書店から出ると、真っ直ぐに魔法訓練所へ向かった。

魔法訓練所の扉を押すと、冷えた空気と、微かに焦げたような匂いが鼻を突いた。以前ミナと訪れた時とは違い、案内をしてくれる者はいない。


「えっと、どこ使ってもいいのか……?」


柱に区切られた区画をいくつか見て回るが、どこも先客で埋まっている。壁際をうろうろとした挙句、ようやく空いている一角を見つけた。標的の円盤は動いていないが、それでいいことにする。


「まぁ、いいか。まずは自分でやってみるか」


本を開き、最初のページに従って掌を上へ向ける。


『掌に薄く魔力を集める。魔力を操作できていなければ、形は保てない。また、イメージしやすい属性でやる』


「イメージしやすい…ミナがやってたやつでいいか」


言葉通りにやってみる。だが、集まった魔力は形を保てず、白い霧のように掌の上でふわりと散った。


「ん、消えたな」


もう一度、今度は多めに込めてみる。すると今度は逆に、掌の上で塊が大きくなりすぎ、魔力で支えきれずにぼとりと足元へ落ちた。ぱしゃり、と冷たい水音が鳴る。


「重ってぇな、おい」


三度目、四度目。試すたびに違う失敗が重なっていく。掌から溢れて指の隙間から漏れたり、力みすぎて逆に何も出てこなかったりと、思うようにいかない。


「これ、地味に難しいな……」


一人でぼやいていると、少し離れた場所から視線を感じた。


振り返ると、紫がかった長い髪を無造作に流した少女が、腕を組んでこちらを見ている。損壊地の調査依頼で顔を合わせた、Bランク冒険者のアネットだった。


「何やってるのよ、それ」


近づいてくるなり、アネットは口元に薄い笑みを浮かべた。


「剣士が魔法ごっこ?」


「一応、魔法士でもあるんだよ、俺」


アルクは掌に残った水滴を服で拭いながら、苦笑気味に答えた。


「魔力量はある方でな」

(デーモン種は俊敏と肉体強度以外は高水準なんだよな)


内心でそう付け足しながら、アルクは本のページへ視線を戻した。アネットはまだどこか疑わしげな目つきのまま、標的の前で足を止めている。


「へぇ…それにしては下手じゃない。教えてあげようか?」


「おっ、いいのか?よろしく頼むわ」


意外と親切なタイプのようだ。アルクはそれからしばらくアネットに魔力操作について教わっていった。



その頃――アルンダラの騎士団拠点では、ガルドが執務机に向かっていた。机の上には報告書が積まれている。


紙をめくる音だけが、静かな部屋に響いていた。そこへ、扉を叩く音がした。


「入れ」


「ええ、失礼するわ」


入ってきたのはミレアだった。ガルドは顔を上げる。


「どうした?」


ミレアはすぐには答えなかった。そのまま窓際まで歩き、外へ目を向ける。しばらくして、ミレアが口を開く。


「あなたも感じたかしら。昨晩、大森林の方角から感じた禍々しい力を」


ガルドの手が止まった。


「……もちろんだ」


低い声が返る。


「あそこまでの力、感じない訳もない。騎士団の何人かの実力者も同様に感じ取った。気の所為では無いのだろう」


「そう」


ミレアは窓の外から視線を離さない。


「インセクト種の親玉か、はたまた未確認の魔神か」


「どちらにせよ、厄介な話だな」


ガルドは椅子へ深く背を預けた。ここ最近だけでも、妙な報告が増えている。強力な魔物。これまで確認されていなかった個体。そして、昨晩感じた異質な力。


「まったく、最近は色々なことが起こり過ぎだろ」


ガルドは小さく息を吐くと、ミレアが振り返る。


「それで、どうするの?」


ガルドは少し黙ってから、机の上の報告書へ目を落とした。


「…俺たちも、また禁域でレベル上げをするべきか」


「…そうね。上にはバレないようにしないと」


「ああ。バレたら面倒だが、今の俺たちでは対処が難しい"何か"が起こるかもしれん。それを考えたら、やらない理由もない」


ミレアも冗談を返すことなく、静かに頷いた。


「目標レベルは?」


ガルドは腕を組み、しばらく考える。やがて、窓の向こうに広がる街を見つめながら呟いた。


「まぁ、230辺りまでいければ上々だろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。