↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかくアバターの姿で転生したのに異世界の連中がやけに強い。  作者: モノノキ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/34

第26話 結晶

土煙がまだ収まりきらない中、タナカは頭上を見上げたまま動かなかった。


枝葉の隙間から差し込む月光すら遮る暗がりの奥、そこから降りてくる気配は、先ほどまで相手にしていたキング・オーガやグランド・ドラゴンとは、明らかに質が違う。

重さがない。それでいて、額の三つ目がそちらを向いた瞬間、皮膚の下を何かが這うような感覚が走った。


「……なんだ?」


タナカは魔帝ノ大剣を構え直した。刃の切っ先を、降りてくる気配の方角へ向ける。


その時、大樹の幹に光が浮かんだ。


一つや二つではない。無数の光点が、樹皮の溝という溝に沿って灯っていく。まるで血管の中を淡い燐光が流れているかのようだった。光は次第に強さを増し、幹全体がぼんやりと発光する。


タナカは目を細めた。ぜんぶ見え見えだゾ〜?の感知が、その光の一つ一つに反応している。


頭上の暗闇が、ゆっくりと動いた。


巨大な影が、枝を避けながら降りてくる。羽ばたきの音はほとんどしない。タナカは大剣を握る手に力を込め、次の瞬間に振るえるよう身構えた。


だが、月光の下に姿を現したのは――白い鳥だった。


翼を広げれば大樹の幹の半分ほどはあるだろう巨躯。

羽毛は雪よりも白く、淡く輝いている。瞳だけが金色に光り、タナカを見下ろしていた。


(まったく知らない魔物だな。いや、そもそも魔物なのか、こいつ)


白い鳥は、タナカのすぐ手前まで降りてくると、そこでぴたりと止まった。地上には降りず、羽ばたきだけで宙に留まっている。金色の瞳が、じっとタナカを見つめたままだった。


敵意がない。


タナカには、それがはっきりと分かった。筋肉の張り、翼の角度、視線の動き――どれもが、攻撃の予備動作とは違う。ただ、値踏みするような、あるいは何かを確かめるような静けさがそこにあった。


「……何か用かよ」


タナカが呟くと、白い鳥はわずかに首を傾けた。答えるはずもないが、その仕草はどこか人間くさい。


しばらく睨み合いが続いた。


先に折れたのはタナカだった。大剣を下ろす。大剣の切っ先が地面へ向いた瞬間、白い鳥もまた、大きく広げていた翼を静かに畳んだ。

まるでこちらの動きに応えるかのようだった。


「もう戻れ」


タナカが短く言うと、傍らに浮かんでいた色欲ノ影が、不満げに唇を尖らせながら黒い煙となって大剣の中へ戻っていく。


「えー、もっとヤりたかったんですけどぉ⋯」


小さな声が消えると同時に、大樹の幹に走った光の帯が、一点へ集まり始めた。淡い光が線を描きながら流れ、ある一箇所に収束していく。


パキ、と乾いた音がした。


続けて、もっと大きな音。木の繊維が引き裂かれる、重い音だった。


幹の中央、タナカの視線の高さより少し上に、縦へ走る裂け目が開いていく。中から漏れ出したのは、淡い青の光だった。


タナカはペンダントの感知に意識を向けた。


裂け目の奥から、これまで戦ってきたどの魔物とも違う、異質な存在の気配が伝わってくる。武気でもない。魔力でもない。名付けようのない何かが、静かに、しかし確かにそこにあった。


心臓の奥が、一度だけ強く跳ねる。ゲーム時代から培ってきた勘が、警告よりもむしろ、強い興味を感じていた。


「……おい、入っていいのか?」


白い鳥へ問いかけると、それは金色の瞳をタナカへ向けたまま、静かに頷いた。


「へぇ、じゃあ入るか」


短く漏らし、タナカは裂け目へ足を向けた。大剣を担ぎ直し、開いた隙間へ体を横にして入っていく。白い鳥は追ってこず、裂け目の外に留まったままだった。


内部は、外の森とはまるで違う空気に満ちていた。


湿った土の匂いも、腐葉の匂いもない。代わりに、どこか清涼な、水のような匂いが漂っている。壁も天井も、木の繊維が幾重にも織り重なってできており、その隙間から淡い光が絶えず滲み出ていた。

歩くたびに、足元の木肌がわずかに沈み込み、また戻る。まるで生きた何かの体内を歩いているようだった。


しばらく進むと、視界が開けた。


広い空間だった。天井は高く、四方の壁からは無数の細い根が垂れ下がり、それぞれの先端が淡く発光している。まるで無数の星を吊るしたような光景だった。


そして、空間の中心。


薄青い巨大な結晶が、静かに浮かんでいた。


結晶の表面は滑らかで、内側からにじみ出る光が、周囲の空気をうっすらと染めている。タナカは足を止め、その中を覗き込んだ。


結晶の内側に、人の姿があった。


タナカよりも少し小さい体躯。背中には、白く輝く翼が一対。長い金髪が、結晶の中でゆっくりと、水中を漂うように揺れている。目は閉じられ、表情には何の緊張もない。眠っているようにしか見えなかった。


タナカはしばらく、その顔をじっと見つめた。


記憶を辿る。ChaosFantasyで見た顔か、それともフレンドの誰かか。似た容姿のNPCがいなかったか――記憶の底をどれだけ探っても、引っかかるものは何一つなかった。


「え、誰だこいつ。知らん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。