見送り⑦
「うぅ~~」
カチャカチャ
「うう~~」
気まずい。
夕食をミオと向かい合わせで食べてるが、
目の前から威嚇の声が鳴りやまない。
「なあミオ」
「フン!」
「……はぁ」
喋りかけたらこの有様ですごく困る。
昼の一件、僕は注意をしていたのだ、ミオは僕以上に世間知らずなため手加減と言うものを知らない。
{尻尾一本分だけでいいんだからな?}と言った所、{そうなの?}と言う会話があったくらいだ。
だからこそ、そこで安心してこんな結果になってしまった。
ガタ。
トイレに向かうために立ち上がる。
ガタ。
目の前の少女も立ち上がる。
「トイレ行くだけだから座ってな」
そっぽを向かれるのを見た後トイレに向かう。
取っ手に手をかけ、止まり、後ろを振り向く。
「勘弁してよ……」
後ろをついてくるミオに絶望する。
「男でも音を聞かれるのは恥ずかしいの!分かる?」
いつもなら席で待ってるくせに!もしかして仕返しのつもりか?
無視をするミオをこちらも無視して、トイレに入る。
「う~~」
今回は小便だからまだいいが、
大便の時にこれやられたらキレるぞ僕は。
ミオの声とじょぼじょぼと言う音を聞きながら便器を見つめる。
「やっぱり、良く出来てるよな」
奴隷時代のトイレは最悪だったからな……。
悪臭が立ち込め虫が飛び回る光景を思い出す。
専用の場所があり、それを処理する奴隷がいたくらいだ。
おじさんと2人であの仕事にならなくて良かったと本気で安堵していたくらいだ。
この村のトイレは村から少し離れた場所に溜まるようになっている。
それを定期的にアストレアが高温で熱し肥料に変えていると聞いた。
「あいつはホント何でもできるな」
手を洗い終え、トイレから出るとゴン!と言う音と「イタ!」っと言う声が聞こえた。
頭を押さえ睨んでくるミオがいるが、
それは君が悪い!
テーブルの食器を流しに置き洗ってから2階へ行く。
穴。
廊下の上にぽっかりと空いた穴から月明かりが入る。
(明日の内に屋根の部分だけでも塞ぐか)
そして自分の部屋に入る。
「ミオ、今日の朝言った通りにする、いいんだよな?」
「う~、……、うん、それでいい」
僕のその声に唸り声を止め暗い声が帰って来る。
今日の朝に決めた事、ミオの母親を井戸の隠し通路に隠し、
持ってきた幹を井戸の近くに埋める事になった。
ミオの母親の死体は腐ることなく存在し続ける、
腐らない死体なんて、知られたら終わりだ。
「……分かった、行こう」
アストレアがいない今、色々としなきゃいけないことがある。
のんびりと遊んでる暇はない、
皆に心配をかけないためにも夜に動く事はミオにも言ってある。
ミオが守っていた木の幹を持ちーー
「お母さんはうちが持つ」
「ああ、頼む」
母親を強く抱きしめるその姿に胸が苦しくなる。
けど、ミオが決めた事だ。
一緒に1階まで降り玄関を開けるーー
「あ!」
「うお!」
開けた先にアンナさんとウィリアムさんがいた。
アンナさんの声と僕の驚きの声が重なる。
「えっと…どうかしましたか?」
気まずいものを感じつつ用件を聞く。
「えっと、その」
「アンナがガルムに謝りたいんだと」
手を組み合わせ視線を下に送るアンナさんの代わりにウィリアムさんが答える。
「…朝の一件ならアンナさんが謝る事じゃないですよ?
僕は恨まれる覚悟でやった事ですから…」
「…いいえ、謝らせて、今その言葉を聞いて余計に謝らなくちゃいけないって思ったわ。
ガルム君本当にごめんなさい!
ヘンリーの為にしてくれた事なのに、
どうしても抑えることが出来なくて…、嫌な思いをさせてしまった…」
頭を下げるアンナさんを困った顔で見つめ隣のウィリアムさんを見ると頷いていた。
「なんて言えばいいのか分からないんですけど…
その、謝罪を受け取ります」
顔を上げて僕を見るアンナさんの表情は、
まだ不安の色を見せる。
「その…ヘンリーと今まで通りに接してくれる?」
「……あいつ次第ですかね?また尻を引っ叩くかもしれません」
僕が笑うと目の前の2人が顔を見合い微笑む。
「もう大丈夫よ」
「もう大丈夫だ」
「それなら僕も安心できます」
頭を下げアンナさんは家に帰るが、
ウィリアムさんは少し話があると言って残っている。
「話って長くなりますか?」
「ん?そうだな少し長いかもしれない、
すまんなどこか行く感じだな、日を改めよう」
僕とミオの状態を見て立ち去ろうとするウィリアムさんを止める。
「待って!僕らの事は気にしなくていいんです。
ただ、僕もウィリアムさんに話すことがあるので、
先に話しておきたかっただけです。」
「なるほどな、聞こう」
「僕は明日から鍛錬に行けなくなるのでそれを言っておこうと思って」
「ああ、その事ならアストレアさんから聞いてるよ、
くれぐれもガルムに無理をさせるなとね」
根回しまでしてたのかあいつは……。
「もう1つ、僕の傷が治ってもこれからは参加するつもりはありません」
「……それは、理由を聞いてもいいのか?」
「……確かめたいことがあるんです」
「……そうか、元々強制じゃないんだガルムの思うようにしたらいい、
それでもたまには参加してくれよ?」
「はい勿論です!
僕が言いたかったのはこれだけです」
「俺も少しだけ俺たちの事を知っていてほしかっただけだ」
「俺たちの息子はヘンリーだけじゃないんだ、兄がいたんだよ」
「いた…ですか」
「あぁ、もうこの世にはいない、
俺たちが王国から逃げる時に幼かった事もあって、それで」
言葉が、喉の奥で引っかかった。
「アンナが過剰にヘンリーを大事にする気持ちも分かって欲しい、
俺達やアーサー家の親族は多分全員処刑されてるだろうから、猶更な」
「え?なんで!?
親族の人たちも何か悪い事をしたって事?!」
この村にいる人が王国では悪い事は分かる、
だけど親族の人たちは関係ないはず……。
「そうか、そうだよな分かるはずがないか、
軍や国に所属する俺たちが国を裏切ることはそれほど重い事なんだよ。
それを知りながら逃げ出した、それが俺たちの罪なんだ」
「たとえ生き残ってるとしても、俺らは恨まれてるだろう。
すまんな、俺が伝えたかったのはこれだけだ」
離れて行く背中を見つめる。
この村にいる人達の明るさの裏にそこまでの苦しみがあるなんて思いもしなかった。
自分の事しか考えて来なかったーー
「ガルムの悪い所だよそれ、全部抱え込まなくていい」
「え?」
「……うちが言う事じゃない、だけど切り捨てるのが正解の時もある」
「ふぅ、そうだな、今はやる事だけやろう」
「うん、それでいいと思う」
ミオの頭を撫で、井戸の道を2人で歩き始める。
「ミオごめんな、もっとちゃんと言えばよかった」
「うちもごめんね、人の細かい機微はうちにはまだよく分からない……」
「お互いさまって事にしよ?ミオとギクシャクすんのは嫌だからさ」
「うん、仲直り」
出来る事を頭に思い描き、
ミオと手を繋ぎ、東の奥を見つめる。
汚い話もありましたが、リアル思考派なのでここは譲れません!!
アイドルに幻想を抱かない派でございます!




