巡る覚悟②
ゴッ!
ゴッ!
鈍い音が夜の森に響き続ける。
衝撃が腕を通して肩まで突き抜ける。
樹皮がわずかに抉れ、細かな木片がぱらりと落ちた。
「はぁはぁ、ック!」
動きを止め震える手のひらを見ると血が滲んでいた。
長い時間同じことを繰り返している。
木剣が手をすり抜け地面に落ちる、
それを見ずに後ろの岩を見続け、そちらに近づく。
ガルムの姿がちらつく、村にあった岩よりも一回り小さい。
右手に力を込め振り下ろすーー
ゴン!
「グア!」
反射的に腕を引き拳を見ると血が滲んでくる。
何時間も剣を振り続けて手に力が入らないからだけだ。
万全の状態ならこんな岩……。
「クソ!!」
ドン!
もう一度岩に拳を打ち付け、止まる。
体が震えるのが分かる、
違うだろ、最初にここに来た時試そうとした。
けど逃げたんだ俺は!
出来なかった時、言い訳が出来なくなるから。
何が足りないんだよ、ガルムが魔族だからか?
「違う!!」
「そんな事関係ない!!」
その言い訳を認めれば俺は一生ガルムに勝てない事になる!!
それだけは絶対に嫌だ!
俺は何をすればいいんだよ?
どうすれば強くなれるんだよ?
こんな事考えた事なかった、
勝ち続けたラインに負け、
ガルムの凄さを知った。
気づけば、変わろうとしていないのは俺だけだった。
……それも違う、皆変わろうと足掻いてた、
それを見ようとしてなかっただけだ。
「俺に、なにがあるんだよ……」
「手っ取り早く強くなる方法は、ないのかよ…」
「そんなんで得た力、ガルムは認めてくれないと思うぞ?」
後ろからの声に振り返る。
「…父ちゃん」
周りを見て俺の隣に腰を下ろす。
顔を合わせず岩に視線を戻す。
「力は力じゃん…何がいけないんだよ」
「確かにな、だがもしそんな力を手に入れた時、
お前は努力をしなくなる、そうだろ?」
「な!勝手に決めつけんなよ!」
「ならなんでガルムが来る前は鍛錬に来なかったんだ?
まったく来ない時もあったよな?」
「そ、それは」
「理由が言えないか?」
「必要ないって思ってただけで、」
「違うだろ?逃げてたんだよな?」
「決めつけんなよ!」
立ち上がり父ちゃんの顔を睨む。
そこには鋭い眼光の父ちゃんがいた。
こんな顔、知らない…。
歯を食いしばり睨みつけ、
父ちゃんの口が動くのを見つめる。
「お前が鍛錬を休む前決まって俺にボコボコにやられた時だ、
その後ラインと勝負して喜んでるのも知ってる」
「そ……」
声が出ない、出せない。
父ちゃんの言う通りだからだ。
「ガルムとお前の違いの1つだろ?
いいや、ガルムだけじゃない、ラインもだな」
「え?」
「分からないか?あいつらは必死に努力を続けるぞ?たとえ負けようともな。
その理由は様々だろうさ、だが必死に追いつこうとしてる」
「お前は、ガルムが教えようとした事が伝わってないみたいだな?」
「そんな事はない!ちゃんと俺なりに考えてるよ!」
父ちゃんの目が大きく開かれる。
「ならさっきの発言は何なんだ!!」
「うっ……」
涙が零れる。
恐いんじゃない、悔しいんだ。
父ちゃんのいう事が全て理解できるからこそ、
悔しい……。
「ヘンリー、お前は俺たちの自慢だ、
俺なんかより必ず強くなる」
歯を食いしばり涙を流しながら父ちゃんの顔を見つめる。
「だが今のままだとお前は置いて行かれる、あいつらはもっと強くなってるぞ?
足元にも及ばないくらいな」
そんな事分かるわけないだろ!
その言葉を必死に飲み込む。
「俺は王国軍教導隊の1人だった、
周りと比べて強くはないし、言葉で教えるのも苦手だ、
それでもその地位を与えられた。
沢山の人間を育てて来た俺が断言するんだ、それすらも疑うか?」
首を振り否定する。
「うぅ、自分が、強くなってるのか分からない…
頑張っても先が見えないのが辛いんだ……」
「そんなのはみんな同じなんだよ、
そんな事誰にも分かりはしないさ、誰にもな、
その暗闇を歩き続ける奴にお前もなれと言ってるんだ!!
あいつらのように!!」
その言葉に目が大きく見開くのを感じる。
…そうか、そうだよな、そんな事当り前の事だ…。
「どんな道を選ぼうと俺らはお前の味方だ、
ただ親としてお前が1番でいて欲しい。
それは俺の我儘だ、押し付けるつもりもない。
ただ現実を知れ、世界にはお前の年で戦争に参加してるやつもいる、
お前より強い奴も沢山いる、それだけは忘れるなよ?」
父ちゃんが立ち上がり「帰るぞ」と言い、
それに従い何も言えずについていく。
「父ちゃん」
「どうした?」
「明日からもっと厳しくして」
「……、泣き言は許さんからな?」
「分かってる」
なるよ、なってみせる、俺が世界で1番強くなる。
絶対に逃げない!心に刻むんだ!!
◇ ◇ ◇
(ありがとうガルム、お前の姿を見て俺が逃げてた事に気づかされたよ。)
将来お前らが試合をするのが本当に楽しみになった。
「ありがとう」
木々のざわめきにかき消されるのと
村の光が見えるのは同時だ。
妻が駆け寄りヘンリーの前に来て、
その顔を見る。
アンナも分かるだろ?
剣士として生きたお前ならさ。
「お風呂に先に行ってきてね?」
頷き風呂小屋に向かう小さい背中を見つめる。
「ガルムに謝らないとな?」
「……はい、あの子のあんな顔初めて見ました」
「だな」
「少し寂しいです、私は……」
「俺は嬉しいけどな?」
「あなたに母親の気持ちなど分かりませんよ!」
「まぁ、それは確かにな…」
変わらないものなんてないさ…。
誰に向けた言葉なんだろうな。
「帰ろう、今日のご飯は何なんだ?」
「俊鳥のスパイシー焼きですよ」
「おお!俺の好物じゃないか!!早く帰ろう!」
「はは!子供ですかあなたは!」




