見送り①
モヤモヤした気持ちのまま解散となり、
今はアストレアの身支度をしている姿を黙って見つめている。
「武極を教えるのは帰ってきてからにする、
今教えたらどこかの誰かさんが無理しそうなんでな」
信用されてないな、心配ともとれるけど。
今日僕が体を鍛えに行きたかったのは焦っていたから以外にも理由はある。
……昨日、いや一昨日僕の体に起きた異変を調べてみたいと思ったから。
朝にミオと話した時に聞いた事、
尻尾の拘束から抜け出した時と一瞬で間合いを詰めた時の事を聞いてみた。
{あの時本気で絞殺そうとした}{急に目で追えないほどの速さでびっくりした}
それを言われて朝からずっとモヤモヤしているのだ。
(さっき村に帰る途中に試したけど何も起きなかったしな……)
ほとんど準備を終わらせていたアストレアが壁に掛けられた帽子を取るタイミングで語り掛ける。
「ねぇ、一昨日ミオと戦ってる時に起きたことなんだけどさ、いつも以上の力が出たり、一瞬で間合いを詰めるみたいな体験をしたんだけどさ、これって何なのか分かる?」
急に振り返り目を見開くアストレアがそこにはいた。
なにか知ってるのか?
「……それは、いや、まだその域に到達してないだろコイツは…」
独り言のような声が耳に届く。
「何か知ってるなら教えてくれない!?」
「武極へ至る段階でそのような技がある……だが!
今のガルムがそれを出来るとは思えない、
バカにしてるんじゃない、簡単に到達できる事じゃないって意味だ」
「それじゃあ分からないって事?」
頷きで返され肩を落とすが。
「ただ、武極でないならそれはお前自身に”何かが”あるという事でもある、
落ち込むことではないだろ?」
確かにそうだ、何回かできたのならこの先でも使えるという事、
その使用方法さえ分かれば今の僕でも守ることが出来る……。
「何度も言うが焦るなよ?その力が安全でない可能もあるんだからな」
「まずは体を治してから、だろ?分かってるさ」
僕にも可能性があると思えただけでも大きい事だ、
今は我慢だ。
「もう準備終わったの?」
「ああ、ガルム頼みがある」
「分かってるさ、村の事を頼むだろ?」
「全然!違うわね」
ええ?!
何回も言われたからそうだと思ったが全然違うの?
じゃあなんだろ?
「問題を!起こすなよ?」
最初に声を大きくして強調して言ってくる言い方は癪に障るな。
「大丈夫!」
「そうは思わないから言ってるんだがな、
ため息もそれが心配で心配で…」
目元を隠しうなだれるアストレアを不憫に思う。
だけど大丈夫って言うしかないじゃん!
好きで問題を起こしてるわけじゃないんだからね!
「結果的には良い方に向かってるんだからいいじゃん!
ヘンリーが毎日鍛錬するようになったし、
クララも結果的に凄そうな幻獣を使役してる、
ラインも新しい一歩を踏み出そうとして、
ミオとこうして居られてる、
僕の力に可能性?があるって知れたのも全部問題を起こしたからだし!」
「はぁ、あたしは結果論で語るのは好きじゃ……、
いや、確かにこれは…”起こりすぎだ”」
ん?
どういうことだ?
「おいガルム」
その声は先ほどまでとは違い真剣さを含んでいた。
「お前、奴隷の時も問題を起こしまくっていたのか?」
アストレアが人の過去を聞いてくることに驚きつつ首を振る。
「え?いやそんな事は、ない、と思うけど…。暴動に参加した以外は問題は起こしてない、かな」
奴隷時代を振り返りながら言葉を発する。
ひどい扱いを受けてたのは関係ないし、
皆から嫌われてたのも関係ないよな?
「いつからだ?」
「え?」
「いつから問題を起こすようになったかを聞いてる」
「何なんだよ?それって重要なこと――」
「いいから話せ」
言葉の鋭さに息を飲む。
何なんだよ…。
「えっと、モース村に来てからだと思う」
「坑道を出てからこの村に来るまでに何か物を貰ったり、
記憶に残る言葉を言われたりしなかったか?」
うーん、物は何も貰ってない。
となると、記憶に残る言葉。
たくさんありすぎるんですけど……。
「物はないけど、言葉は色々あってどれだか……」
「異常、いや特別な存在からで絞れ」
特別……え?あれの事か?
セイと別れる前に言われた言葉が蘇る。
「その、特別な存在から【強くなれ】とは言われたけど、他には思い出せない、かな」
セイが話せるのは秘密にして欲しいと言っていたので濁して話す。
口に手を当て眉間に皺を寄せるアストレアに不安になり隣のミオを見る。
お互い首を傾げるしかできなかった。
「呪い…か」
「呪い?!」
ミオが僕から少し離れたのを悲しみつつその言葉に驚く。
「いやいや!そいつは人を呪うような奴じゃないって!」
「言い方は他にもある、言霊だったり、加護であったりな、
だがあたしから言わせれば呪いなんだよそれは」
アストレアのいう事が理解できない、
強くなれって言われることの何がいけないんだよ…。
「だが周りにまで影響を及ぼすなど聞いたことがない……。」
「これは……」
一瞬、言葉を止める。
「最悪だな」
よく分からない、ただ最後の言葉に僕も不安になる。
「ガルムお前は今強くなる可能性を、”引き寄せる存在”だとあたしは考える」
それっていい事……だよな?
アストレアに手のひらを向けられたので言葉を発せなかった。
「表面だけ見ればいい事だろうな、だがな裏面を見た時それは」
言葉が止まり静寂が包む。
外から聞こえる子供たちの笑い声や大人たちの会話の声。
この家だけが別の空間と錯覚するほどに張りつめている。
「ガルムやその周りが強くなる為なら、
”どんな事でも起こる”って意味なんだよ」
僕はその時、その言葉の意味を軽く考えていた。
アストレアがなぜ”呪い”と言ったのか。
その言葉の意味を理解した時、
――もう、戻れないと知った。




