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始原の裁定者と終結の器  作者: 解放さん
序章 生きる意味

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迷う者と迷わぬ者

あの後、ひとしきり泣いたあとテントに戻り、疲れが出たのか僕はぐっすりと眠ることができた。


体が揺さぶられる感覚に、ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。


 


「朝だよ~、起きて~」


 


温もりのある声。

フリージアだとすぐに分かった。


 


「うぅ~ん……おはよ。よく眠れた?」


 


目をこすりながら、他愛もない言葉を交わす。

フリージアは眩しい笑顔で「うん」と頷いた。


 


僕とフリージアの身長はあまり変わらないが、少しだけ僕の方が高い。

だからだろうか、守ってあげなきゃという気持ちが自然と湧いてくる。


ゼルムおじさん曰く、僕の年齢は十二から十四くらいらしい。

……もっとも、「あてにはすんな」とも言われているけど。


 


「他の人たちはもう起きてるの?」


「うん!みんな忙しそうに動いてるよ。おじさん?でいいのかな……ガルム君を起こしてこいって頼まれて。身支度をしてすぐ出発するぞ!って言ってた」


 


どうやら寝過ごしてしまったらしい。


フリージアが差し出してくれた、汚れていない服を受け取り、すぐに着替えようとする。


 


「きゃっ!」


 


フリージアが両手で目を覆い、くるりと後ろを向いた。

耳が赤くなっているのがよく分かる。


 


坑道では上半身裸の男なんていくらでもいた。

そんなに恥ずかしがることでもないと思うのだが……。


首を傾げつつ、着替えを終える。


 


「フリージア、急に服脱いでごめんね。もう終わったから外行こ?」


「……うん」


 


どこか恥ずかしそうなまま、二人でテントを出る。


外ではフリージアの言う通り、大人たちが忙しく動き回っていた。

荷物をまとめ、テントを片づけ、出発の準備をしている。


 


広場の中央では、ゼルムおじさんとレオが話していた。

僕が近づくと、ちょうど話が終わったらしく、おじさんがこちらへ来る。


 


「よぉ寝坊助!ぐっすり寝れて疲れは取れたか?」


 


いつもの笑顔。


その顔を見た瞬間、昨日レオに言われた言葉が頭をよぎる。


――その後のことは、お頭が決める。


 


僕はそれを振り払うように、頭を軽く振った。


 


「うん!全力疾走でエルフの森まで行けるくらい元気!皆で競争しながら行く?」


「それは俺が死ぬから却下だ。嬢ちゃんだってついてこれねぇだろ」


 


手を振りながらフリージアに視線を向けるおじさん。


 


「あの……私、風魔法が使えるので、多分大丈夫だと思います」


「そうなのか!?その年で使えるなんて珍しいな!さすがに初級魔法だよな?」


 


僕は単純に興味が湧いたし、おじさんは純粋に驚いているようだった。


 


「中級までなら、風、水、土、光を扱えます」


 


おじさんが固まった。


 


僕は何がすごいのか分からず、首を傾げる。


それに気づいたおじさんが説明してくれた。


 


「魔法を覚えるのは、そんな簡単なもんじゃねぇ。対になる“武極”ってのもあるが……今は省くぞ」


 


指を折りながら続ける。


 


「必要なのは、まず素質。次に努力――いや、能力だな。そして最後に精神力だ」


 


「普通は魔法学院に行って、三年かけて初級を極める。それも一つの属性、良くて二つだ」


 


そこまで言ってから、フリージアを見る。


 


「エルフは魔法の素質が高いから驚くことじゃねぇのかもしれねぇが……」


 


そして僕に向き直る。


 


「いいかガルム。魔法も体と同じだ。腕を鍛えりゃ腕が強くなる。脚を鍛えりゃ脚が強くなる」


 


「脚を鍛えて腕が強くなることはねぇ。それと同じで、魔法も一つ一つ鍛えなきゃ使えねぇってことだ」


 


なるほど、となんとなく理解する。


つまりフリージアは、とんでもなくすごいってことだ。


 


外に出てからフリージアが安心した顔を見せることが増えた理由も、少し分かった気がした。

魔法が使えるという自信があるのだろう。


 


「エルフでも、一つか二つを極めるのが普通です。私の場合は……お母様が教育熱心だっただけで……」


 


「いや、十分すごいだろ」


 


おじさんは笑う。


 


「ちょうどよかった。戦えるかどうか確認しようと思ってたんだ。森に行けば魔物と遭遇するのは避けられねぇからな」


 


フリージアは頷く。


僕も迷わず頷いた。


 


「よし!なら問題ねぇ!」


 


おじさんは満足そうに頷く。


 


「俺も守るが、自分で身を守れるに越したことはねぇ。それに迷いの森はお前ら二人で行くことになる」


 


そう言って、僕にロングソードと短剣を渡してきた。


 


剣なんて触ったこともない。


それでも手に持つと、つるはしを扱っていたせいか不思議と軽く感じた。


 


少しだけ鞘から抜き、光る刃を見つめる。

それから静かに戻した。


 


その様子を見て、おじさんは僕とフリージアにザックを渡してきた。

中には食料や寝袋が入っているらしい。


 


「うぅ~重い~」


 


フリージアがふらつく。


 


僕は軽々と担げるので、「持つよ」と手を差し出したが、フリージアは首を振った。


 


おじさんを見ると、肩をすくめる。


「好きにさせてやれ」


 


仕方なく引き下がる。


 


「無理そうならいつでも言ってね」


「うん……ふぬ~!」


 


よく分からない掛け声を出しながら、フリージアは歩いていく。


 


それを見ていると、レオとテッサがゼルムおじさんに近づいてきた。


 


「お頭、いつでも出発できます。この後は予定通り動きますので……お頭もお気をつけて」


「あぁ。俺がいなくても進めろ。何も起きなきゃそれが一番だが……まぁ、十中八九何か起きる」


 


少し笑ってから続ける。


 


「いいか。月狼団の誇りを忘れるなよ」


 


レオとテッサは強く頷いた。


 


おじさんは大きく息を吸い込む。


 


「おめぇらぁ!!月狼団の誓いを!!」


 


右肩の袖をまくり上げる。


そこには、狼と半月の入れ墨。


 


それに応えるように、全員が同じ場所を露わにする。


 


――仲間を守り、未来を紡ぎ

――為すべきことのために悪魔となり

――誇りを胸に存在を刻め


 


百人近い声が重なり、森に響いた。


鳥たちが一斉に飛び立つ。


 


誰の目にも迷いはなかった。


その光景を見て、胸が熱くなる。


 


――これだ。


 


僕に足りなかったもの。


 


「出発だぁ!!」


 


その声と同時に、皆がそれぞれの方向へ散っていく。


南へ向かう者が最も多く、次いで東、西へと分かれていった。


 


おじさんは酒瓶を片手に、木に収められた人型の木彫りへ酒をかける。


それを少し離れた場所から見ていると、テッサが声をかけてきた。


 


「ガルム。あの時、レオを助けてくれたんでしょ?ありがとう」


 


柔らかい声だった。


 


「私はあなたを仲間だと思ってるわ。あなたのその――」


 


「テッサ!!」


 


レオが割って入る。


 


「ぐずぐずしてる暇はねぇだろ。早く行け」


 


テッサは小さく笑い、僕の肩に手を置いた。


 


「頑張って」


 


そう言い残し、フリージアの頭を撫でてから走り去る。


 


僕とレオは並んで、それを見送った。


 


「……お頭の邪魔になるようなら殺してやるからな」


 


あの時と同じ言葉。


 


「好きにすればいいよ。僕もその時は殺してやるから」


 


同じ言葉で返す。


 


レオと僕は、互いに横目で見て――

小さく笑った。


 


「逃げるんじゃねぇぞ」


 


それだけ言って、レオは去っていく。


 


僕たちはフリージアの元へ向かう。


 


「よし、俺たちも行くか!気を引き締めていくぞ!」


「ふぬ~!」


「うん!」


 


フリージアの謎の掛け声を聞き流しながら、僕たちは西へ歩き出した。


 


おじさんに聞きたいことはたくさんある。


けど、きっと聞いても教えてくれない。


 


だから今は――


 


隣にいるエルフの少女のことだけを考えよう。


 


初めて、自分の意思で守ると決めた存在。


その子のことだけを。










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