ガルム君の6日目(日常)⑦
「アストレアってさ何で笑わないの?」
スープを口に運びながら、ふと思った事を告げる。
食器に注がれていた視線が僕に移る。
「フッ」
鼻で息を出し、
こちらを小馬鹿にした顔を見せて両手を広げるアストレアに呆れてしまう。
「【見せてやったわよ?】みたいな反応してるけど僕が言ってるのは嘲笑じゃなくて普通の笑顔!」
僕の発言に溜息で返される。
「そんなもの見せて何の意味があるのよ?」
うーん、アストレアに笑顔の恩恵を話したところで【無駄】の1言で片付けられてしまう気がする。
「意味を聞かれると困るけど、純粋に見てみたいと思ったからだな、お前顔は良いんだから」
「顔【は】?」
「い、いえ!顔もです」
本気とも冗談とも判断ができないので素早く訂正する。
「笑わないんじゃない、笑えないだけよ」
その理由に大変興味があるのだが…
これ以上深掘りしてもいい結果にはならないだろう、
それでも結果を追い求めるのは悪い事じゃない!
「アストレア、それなら口元を上げてみてよ」
カチャ、カチャ、食器の音。
僕の発言などなかったかのように食事を再開するのを悲しみつつ僕も食事に戻る。
アストレアのつむじをボケーと眺めていると急に顔を上げ目線がぶつかる。
「ガルム、明日は少し忙しくなるから貴方も手伝いなさい、勉強や鍛錬は、そうね…余裕があればでいいわ」
「何かあるの?」
そういえば広場で子どもたちも明日楽しみとか言ってたな。
アストレアを説得する方法で悩んでいたからあまり頭に入ってないんだよな。
「明日はこの村ができた記念日なのよ、毎年その日は盛大に宴を開いてる、
だからその準備ね」
「そんな事してるんだ?アストレアも参加するの?」
「もちろんよ」
驚いた、僕の歓迎会の時は参加してなかったから今回もそうなのかと思ってたのに。
「あたしもあなたと同じくこの村には感謝してる、だから恩を返すのは当然でしょ?」
まぁ義理堅いやつなのかなとは思うな、僕の面倒を見てくれてるのが証拠だろう。
「じゃあ次に僕を祝う何かがあったら参加してくれよ?!」
「貴方に恩はないんだけどね、でもそうね、あたしが参加しないと泣いてしまうなら考えとく、泣き虫君」
ん?
「おいおい、なんか最後の方に幻聴が聞こえた気がするんだけど?」
「幻聴?耳の掃除をしてないからじゃない?」
しとるわ!
「泣き虫くんって聞こえてきたんだけど?」
僕が泣いてた時アストレアはいなかったはずだ、知ってるはずがない!
頼む、知らないでいてくれ!
「帰って来てガルムが2階に行ってる間に代わる代わる人が来て教えてくれたわよ?」
皆…優しい、優しいんだけど、結果的に僕を苦しめてるんですが…。
「ガルム君に優しくしてだの、いい子なのよだの、あなたの擁護とあたしが何かしたと決めつけられてて面白かったわよ?」
あの時泣いてる理由を皆に言うのが恥ずかしくて濁したのが裏目に出た!
確かにあの時「アストレアちゃんに怒られたの?」と言われた。
僕は「グスッ、なんでも、ないんです~気にしないで」
と言って否定も肯定もしてないのが原因だろう。
「それはもういいわ、ガルムは明日出す料理の食材を捕まえてきて」
自分勝手なやつと思いつつ手を上げる。
「食材は生き物だけでいいの?」
「絶対に!動物だけにしなさい」
「な、なんでそんな言い切るんだよ」
僕の発言に目を細めて口を開く。
「あなたが他の食材まで持ってきた場合どうなる?」
どうなる?
何を言ってるんだと首を傾げる。
「はぁ、美味しそうなキノコ採ってきたり美味しそうな山菜を採ってくるんでしょうね」
「メチャクチャ優秀なガルム君じゃん」
「はぁ、遠回しに言ってんだドアホ、
お前の場合毒のあるモノを持ってくる未来しか見えないんだよ!」
た、確かに、否定はできない、納得も出来ないが。
「分かったよ動物だけにする、肉と魚と鳥全部捕ってくる?」
「魚はいらない、理由はさっきと同じ」
こいつ…
歯を食いしばりアストレアを睨みつける。
僕は明日が楽しくなって来たぞ?
見てろよアストレア?
お前の”期待”に応えて見せるからな!!
――――――――――――
眠りにつく前に屋根から雨音が聞こえてくる。
(早めに止むといいな)
宴があるのに地面がぬかるんでるのは嫌だしね。
布団から抜け出し窓の外を見つめる、
激しい雨だ。
……これが、雨か。
ギシッ、ギシッ
お願いします…どうか、どうか!
アストレアにバレずに階段を降りようとしていた。
真っ暗闇の為すごく不気味だ。
後6段下りれば!!
「ひやぁぁぁぁぁ!!!!」
”顔だ”
階段の横から”顔”だけだしこちらを見つめる無表情の顔。
驚きと恐怖で自分の手で咄嗟に顔を隠す。
一瞬ちびりかけた、怖すぎんだろ!!
「おい!」
恐怖のあまり声を荒げる。
「それはこちらのセリフ、何してんのよ」
「まず体もだせ!その姿怖すぎるんだよ!!」
体を全て見せいつも通りの姿に安心する。
「で?何してんのよ?」
「雨を…感じてみたくて」
「とうとうとち狂ったか…言い残す言葉はある?」
「まてまて!僕は正気だから!ずっと坑道にいたから雨を見たことないの!!」
頭に杖を突きつけられ、慌てて理由を話すと杖をどけてくれた。
「はぁ、この先生きてたら嫌でも感じられるから、寝ろ」
分かる。分かるけど――
初めての雨は、今しかないんだよ!!
僕は走り出し玄関のドアを掴む―――――
「助けてくれ――――!!!!」
村長の絶叫が村中に響き一瞬止まるがすぐに扉を開ける。
アストレアも僕の隣に来てその光景を眺める。
皆の家のドアを順番に叩き大声をあげている。
「屋根が!屋根がなくてずぶ濡れなんじゃ~!今すぐに家を直してくれ~!!」
その出来事は同時に起こった。
――アストレアが眉間を抑えて目を瞑り。
――村中の明かりが灯る。
――そして僕は満面の笑顔で外に駆けだす。
「「「うるさーい!!!」」」
「「うるせぇー!!」」
アストレアとトーマスさんを除く大人が怒り叫び。
村長は家に逃げ。
逃げる村長に僕は泥を投げる。
大人たちは村長を追い、
子供たちもその光景を見て外に駆けだし村長に泥を投げる。
◇ ◇ ◇
「ふううううううううう」
「…ごめんなさい」
アストレアが顔を両手で隠し、強く息を吐きだす。
あの後は惨状となり、泥まみれになった皆がお風呂に入り直しようやく落ち着きを取り戻す。
「ねぇガルム?」
「は、はい」
「あたしの心の内をさらけ出していい?」
「だ、ダメです」
「ふううううううううう」
「ねぇガルム?」
「ダメだからね!!」




