ガルム君の6日目(日常)⑤
村長の神々しい姿を見つめていると、アストレアがゆっくりと村長の方へ歩いていくのが見えた。
何かを話しかけると、二人は皆から少し離れて会話を始める。
「……なんか嫌な予感がするな」
村人たちも同じ気持ちなのか、遠巻きにその様子を見守っていた。
会話の途中、アストレアが時折こちらを指差す。
その指の先には、何人かの村人――そして、僕も含まれていた。
(……嫌な予感しかしねぇ)
……それにしても、村長がニコニコしているのも気になる。
やがて話を終えた二人が、僕たちの前に戻ってきた。
「エドワード、ウィリアム、ヘンリー、ガルム」
名前を呼ばれた僕たちは、そろって天を仰ぐ。
――ああ、今日は雨が降りそうな空だな。
「村長の家、直しなさい」
「「「「はい……」」」」
「あ、あの~クララも手伝いたいんですけど……」
おずおずと手を上げるクララ。
「別に構わないけど、重労働になるから邪魔にしかならないんじゃない?」
言い方!
アストレアの頭を叩けるなら、今すぐひっぱたいてやりたい。
「ん~……」
「クララ、体まだ痛いだろ?無理せず休んでろ」
エドワードさんが娘の頭に手を置き、優しく笑いかける。
クララは申し訳なさそうに頭を下げるが、気にする者はいない。
……てか、暴れてた時の記憶はあるんだな。
そんなことを考えていると、村長がやってきて修復組で円を作る。
「アストレアちゃんから聞いたけど、前よりも豪華にしてくれるんだって?!」
その言葉に、村長以外の全員がアストレアの背中を見る。
去っていくその背中を一斉に睨んでから、村長から一旦離れる。
エドワードさんが小声で口を開いた。
「なぁどうする?娘のやった事とはいえ、そんな面倒な事やりたくねぇぞ?」
「同意。僕も早く終わらせたい」
「いや~でも約束破るのもなぁ……」
「屋根にそれっぽい装飾つければいいんじゃね?」
ヘンリーの案に、全員が目を閉じて空を仰ぐ。
「てか村長一人暮らしなんだから、二階も三階もいらなくね?」
「確かに……村長の家だけ三階建てだよね」
「前に言ってたぞ?“村で一番目立ちたいから!”って」
「理由それだけ!?」
誰も何も言わず、風だけが通り抜けた。
「……一階建てにするか」
「いいね!尖がり帽子みたいな屋根にしない?」
「それなら高さ維持したまま手間が減るな……ただ歪すぎないか?」
「いいじゃん目立つし!あとは“豪華”をどうするかだね……」
僕はそっと輪を抜け、村長の方へ歩いていく。
背後で何か言っているが、無視だ。
「村長にとっての“豪華”って何?現実的な範囲でね」
「そうじゃの~……まずは目立つことじゃな!」
(そこは絶対なんだな)
「うん!それでそれで?」
「誰が見てもお金持ち!ってのが伝われば完璧じゃな!」
「わかった!!もうちょっとだけ待ってて!」
駆け足で輪に戻り聞いてきた事を伝え、口を開く。
「目立つのはさっきの屋根で決定として、屋根にさーー」
「アハハハハハハ、それいい!」
エドワードさんは笑い声。
「さすがに村長が不憫すぎないか?俺なら多分キレるぞそれ」
ウィリアムさんは呆れ顔。
「でも村長の言う通りにはなってるし完璧じゃない?」
ヘンリーは飄々と。
ウィリアムさんが挙手をしてきたので頷きで返す。
「まあ、それで進めるとして、屋根に登ってそれをしたら途中でバレるだろ?」
「あ~、僕が考えてたのは先に木材にやってからパズルのように組み立てればいいかなって考えてて」
ウィリアムさんとの考えの違いを正す。
「なるほど、それなら屋根に上ってする必要もないのか、疑問は解けたよ」
周りを見ると皆が頷いたので決定となる。
その後村長から今日は急だからやらなくていいと言われたので解散となる。
気づけば昼前、
約束の魔法の座学までもう少しだ。
アストレアには魔法は外の広場で教えてくれ!
と言ってあるのでアストレアが来るまで子供たちと待っている。
ヘンリーがこの村以外に行きたいと言う話で話が盛り上がっていた。
「えー!いいな!クララも街に行きたい!」
「僕も興味があります、魔術学園に通いたいんですよねぇ」
「皆行きたいんだな」
誰か1人くらい嫌だと言うと思っていたんだが。
「ガルムは街とかに行きたくねぇの?」
「もちろん行きたいさ、でもなー」
僕を見上げるこいつらをみる。
「わかった!ガルムお兄ちゃん都会が怖いんだ!クララが手を繋いで歩いてあげる!」
「じゃあ僕も空いた方の手を握ってあげます!」
「しょうがねぇな、俺はおんぶで許してやるよ」
微笑ましい光景を想像して笑いつつ首を振る。
「僕は魔族だからな、お前らに迷惑がかかっちゃうんだよ」
「「「迷惑?」」」
そっか、こいつらはそう言うのは聞いてないのか…
「守ってあげる!」
「だね!」
クララとラインが頷きあう。
(はは、全部知ってるような事言いやがって)
「魔族の事は知ってるよ俺ら?だけどガルムはガルムじゃん!」
ヘンリーの言葉にクララもラインも笑顔で何度も頷く。
「クララはガルムお兄ちゃんのすっごい優しい所を皆に教えるの!!」
「じゃあ僕はガルムさんの面白い所を皆に沢山伝えます!!」
「う~ん俺はガルムの強さを宣伝しようかな!!殺されちゃうぞってな!」
急いで後ろを向く。
こいつらは…
違う…
この村は…
本当に…
僕の事を…
口元が歪む。
我慢しようとすればするほど衝動は抑えきれなくなる。
ぽたり、と涙が地面に落ちる。
「あー!ヘンリーがお兄ちゃん泣かした!!退治だー!!」
「ガルムさん大丈夫?」
「俺のせいなの!?」
その騒ぎに村の人が集まって来るが涙を止めることが出来なかった。
皆が心配してくれ、暖かい言葉をかけてくれる。
おじさん…
…僕にもできたみたい。
僕の居場所がさ。
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