ガルム君の6日目(日常)①
時刻は朝。
小鳥のさえずりが耳に届く。
文字の勉強は終わり、僕は暇を持て余していた。
勉強が終わった瞬間にカップを置かれる。
「ありがと」
「気にしないで毒は入ってないから」
……
カップを口元に持っていく手が止まりテーブルに置く。
「あら?飲まないの?」
目の前ではいれたてのお茶を飲むアストレアを見る。
カップが置かれた瞬間に素早く入れ替える。
「そんなにあたしと間接キスがしたかったの?やっぱり変態なのね」
ふん言ってろ!
ズズとお茶を飲む。
「あら?毒入りはそっちだったわ」
…
そっとカップを入れ替える。
何事もなかったように座り直す。
「何がしたいのよ貴方は」
こっちのセリフじゃ!!
「命を守ってるの!」
僕は構わずお茶を飲みアストレアも同じように飲む。
突然アストレアが胸を押さえて苦しそうにする。
は!?
……いや、まさか。本当に毒なんて入れるわけが――
「アストレア!大丈夫か!?」
椅子から立ち上がりアストレアの背中をさする。
「うぅ、ガルムの毒素が体内に…」
「は?」
「体の中から侵されてる感覚よ」
「……」
アストレアの背中を強めに叩き席に戻る。
「痛いわね、殺すわよ?」
「背中を叩いただけで殺すな殺すな」
手を払いのける仕草で話を終わらせる。
「そういえばさ」
僕はふと思い出したように言う。
「なあ黒幕と少し話したんだけどさ」
「黒幕?」
「ごめん分からなかったか、裏切り者の事」
「あぁ、ヘンリーの事ね」
頷きで返す。
「そうそう、その薄情者が色々な国を一緒に見に行きたいって言ってきてさ」
「……どんだけ恨んでんのよ」
当り前だろ!
あの裏切り者は許さん!
他人事みたいに言ってるがお前もだからな!
心で悪態を付きつつ話を再開する。
「それが可能なのかどうかを聞きたくてさ」
「今のあなたたちに王国以外に入るのは難しいと思うわよ」
「王国なら問題ないの?」
全ての国が難しいと思ってたんだけど。
「王都アルヴェリアから離れていればね」
「どれくらいの距離あるの?」
「馬車で10日くらいね」
……遠いな。
王都までそんな距離があったのか。
「じゃあヘンリーと行ってもいいって事?」
「……」
あれ?
問題ないのでは?
「それはあたしが色々動くから今すぐには無理」
少しだけ、アストレアの目が細くなった。
……色々?
アストレアが説明しないという事はそういう事なのだろう。
困らせたいわけじゃないので引き下がることにした。
「ねぇ」
アストレアが静かに言った。
「ん?なに?」
これが僕の最初の分岐点。
「面白いことしてみない?」
「へぇ、アストレアがそんなこと言うの珍しいね!」
この選択で僕は多くのモノを得る。
「あたしの目標にも繋がる事よ、あなたとしてみたくなったの」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん!なになに!?話してよ!」
そして多くのモノを失う選択。
「あなたが前に話してた王国を滅ぼす方法…」
「試してみない?」
「え?」
時が止まる感覚を覚える。
目の前の顔はいつもと変わらない。
だけどそれが冗談だとは思えなかった。
外の風が一瞬強くなり窓を揺らす。
それは背中を押すようにも、引き留めるようにも感じた。
「あ、あれは冗談で言ったんだよ?」
「穴はあるけどそこはあたしがカバーできるわ」
……本気なのか?
「楽しい人生になるわよ?」
首を傾げ無表情の顔が今はとても恐ろしい。




