ガルム君の5日目(日常)⑦
「アストレアを呼んでくる!」
となり、家までの道を全力で逆走している。
靴がべちょべちょとして気持ちが悪いな。
子供たちは井戸の前に置いてきた。
濡れてる姿を奥様方にバレるのは厄介と判断したためだ。
僕なら別に関係ないしな。
家の扉を開ける。
「おーい、アストレアさんいるかーい?」
ん?いない? 物音が2階からするので待っているとアストレアが階段を下りてくる。
本を抱えている。
どうやら2階の書庫にいたらしい。
「はぁ、なんであなたびしょ濡れなの?」
「井戸に落ちちゃって、それは良いからちょっと付いて来て、面白いものがあるから!」
「本を読んでる方が楽しい」
まぁ分かってたさ、だがアストレアの性格は何となくだが分かってきている。
こいつの興味を引けば動く可能性はある。
「井戸の中に隠し通路があったんだよ!」
椅子を引く手が止まる。
「そこになんか魔族みたいなのが戦ってる絵が描いてあってさ!」
「…へぇ、面白そうね」
アストレアの興味を引けた!?
「じゃあ井戸の─ ─」
その時だった。
ドォン!!
何かが壊れる音が響く。
反射的に村の方を見る。
村長の家が崩れていた。
二階部分が、ゆっくりとずり落ちていく。
……おかしい。
崩れ方が不自然だ。
断面が妙に綺麗だった。
まるで巨大な刃物で斬られたみたいに。
井戸の方から悲鳴が聞こえる。
「アストレア!!」
「叫ばなくても分かってるわよ」
僕は走り出した。
井戸の前に人影が見える。
奥様達が家から飛び出してくる。
畑のエドワードさんも立ち尽くしている。
いた!!
ヘンリーとラインが尻もちをついている。
その前に立っているのは― ―
クララだった。
だが。
違う……
あれは、クララじゃない?
背筋に冷たいものが走る。
僕はさらに速度を上げた。
「クララやめろ!!」
2人に手を向け何かをしようとしてるクララに叫ぶ。
僕の声にクララの顔が僕に向く。
怒りに満ちた顔が、驚愕に変わる。
それと同時に、僕は二人の前に飛び出し手を広げる。
「……なんで?」
首を傾げる。
本当に分からない、とでも言うように。
「なんで、邪魔するんだ?」
僕は二人の前に飛び出し、腕を広げた。
「友達だからだ」
一瞬、沈黙が落ちた。
クララの目がわずかに揺れる。
「とも……だち?」
小さく、呟く。
その声はどこか幼くて。
どこか壊れていた。
「ともだち……」
もう一度繰り返す。
その顔に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。
そして──
「そこにいるゴミ共が?」
声の温度が消える。
「友達?」
クララの声と一緒に男性の声が混じる。
その異物感が怖い。
僕の背中で2人が震えているのが分かる。
クララは2人を見下ろす。
まるで虫を見るような目で。
「面白い事を言うね?」
ハハと笑う。
「ねえ」
首を傾げる。
「壊してもいいよね?」
空気が凍りついた。
違う。
これはもう──
クララじゃない。
「ヘンリー!ライン!走れ!!」
二人が悲鳴を上げて村へ逃げ出す。
僕は剣を抜かず、鞘のまま構える。
気絶させてでも止める。
じゃないと──
殺される。
空気が変わった。
肌が粟立つ。
「見てみろよ?友達が…友達を見捨ててるんだぞ?」
こいつ……
「……人間」
クララが呟く。
その声は低く、重い。
「いつも、そうだ」
笑う。
だが目は笑っていない。
「助けても」
「守っても」
「最後は――」
顔が歪み歯を軋ませる。
「怖いから殺し、そして裏切る」
空気が震える。
「恩を仇で返すのは……」
声が低く落ちる。
「いつだって人間種だ!」
声で空気が震える。
「……あの方は…あの方達が…どんな想いで…」
「お前…」
片目から涙を流すソイツに驚く。
「…あの方達は優しかったのに…だからこそ、恨みを晴らす!」
クララの涙が地面に落ちる。
そして次の瞬間。
水球が生まれ、
逃げる2人へ向ける。
「やめろ!」
キュオオオオッ!
鋭い音が耳に届く。
斬りかかろうと踏み込む。
だが――
水の球は線となり目で追えない速度でとぶ。
反射的に振り返り、2人の背中を見る。
ダメだ!
手を2人に伸ばす。
キィィィン……!
甲高い音が辺りに響く。
2人は無事だ。
「あ、アストレア、よかった…」
アストレアの魔法だろう透明な壁が2人の背中を守っていた。
アストレアが杖を横に振るう。
なんだよ…それ…
空が、光で埋まっていた。
逃げ場が無い。
上を見上げそれらを見る。
空間を埋め尽くす色とりどりの光の玉に息を飲む。
瞬間的にアストレアに叫ぶ
「殺すな!!アストレア!!」
僕の声で杖を振り下ろすのが止まる。
やっぱり殺そうとしてやがったなあいつ!
「気絶させるんだよ!お前ならそれくらいできんだろ!!」
目の前のソイツも一緒に驚いていたが瞬間大地を蹴り上げアストレアに向かう。
「クソ!」
急いでアストレアの方に駆ける。
ゴゴゴ!と言う大きな音の後に
大地の壁が目の前に広がる。
僕らを閉じ込める檻のように囲う中にはアストレアとクララ、そして僕がいる。
クララがアストレアに殴りかかるも透明な壁がそれを防ぐ。
アストレアが遠目から僕に向かって{どうすんのよこれ}みたいな顔で見てくるが知らん!
そんなのこっちが聞きたいくらいだ!
「何でもいいから拘束してくれ!」
後はその時に考える!!
その言葉と同時に地中から無数の鎖がクララを襲う。
クララは無数の鎖を難なくかわし上空へと飛ぶ。
その直後、クララの上空に巨大な風の塊が渦を巻いて出現する。
おいおいおい!
死んじゃうでしょうが!
慌ててアストレアを見るとこちらに手のひらを向けていた。
「黙って見てろってか?」
焦る気持ちでいると風の塊がはじけ飛ぶ。
瞬間息が出来なくなるほどの爆風で吹き飛ぶ。
「うぉ!!」
風の塊が弾ける。
ジャンプしたクララの体が地面に叩きつけられる。
立ち上がろうとした瞬間、
二つ目の風球が爆ぜた。
爆風が地面を抉る。
アストレアが風球を連続で爆ぜさせる。
クララに体勢を立て直す暇を与えない。
その間に地面から鎖が伸びる。
「すげぇ…」
見ていることしかできない。
尊敬と恐れが入り混じった声を出す。
その声と同時に攻撃も止まる。
急いでクララに駆け寄り拘束されたクララの目の前に行く。
「頼む!もう止めてくれ」
クララの拳からは血が出ていた。
それを苦痛の表情で見る。
これ以上暴れたらクララの体がもたないかもしれない。
「黙れ!人間に与する魔族など!」
その言葉と同時にクララの背中側に円盤状の水の塊が出現する。
それがアストレアに向かう。
パキィン!!
何かが割れる音に振り返る。
透明なガラスのようなものが砕け散っていた。
アストレアの顔にも驚きが走る。
だが、そのガラスの層は3枚に展開されており2枚目で回転を止め水に戻り地面に落ちる。
「だめ…ダメだよ?殺しちゃダメ」
その言葉に急いでクララに這い寄る。
「クララ大丈夫なのか!?」
「はぁ、うん大丈夫…だよ?」
息を荒げるクララの姿、そして拘束を早く解くためアストレアに振り向く。
凄い嫌そうな顔をしたアストレアがそこにいた。
「アスト「嫌」」
被せるように声を出され一瞬止まる。
「こうそ「だから嫌」」
「足の拘束だけ残していいから!」
ため息をつき鎖を解いてくれる。
足首だけまだ拘束されているクララが正座をしてアストレアに謝る。
「アストレアさんごめんなさい…」
その言葉を言ったと同時にクララが腕を右に振る。
アストレアが杖を構え巨大な炎を出現させる。
「ごめんなさい、そうじゃなくて…これ」
クララの手に握られてるモノを見る。
「ヘビ?」
黒いヘビがクララの手に握られ暴れていた。
それを見てアストレアも炎を収める。
「あなたこれ…」
アストレアはクララを見る。
「え?えっとこのヘビが原因なのかなって思って…体から追い出しました…」
体から追い出した?飲み込んでたって事か?
アストレアを見ると難しい顔をしていた。
「……固有持ちか」
ん?固有持ち?なんだそれ?
「おいヘビ、そこの女の子と契約しろ」
「人間が我に命令するな!」
その声と同時に鋭い光のつぶてがヘビを襲う。
「「ヒィ!」」
これは僕とクララの声だ。
クララは驚いて手からヘビを落とす。
地面に落ちたヘビに向かって容赦なく無数のつぶてを発射する。
「お、おいやめろ!!」
うねうね動き攻撃を避ける。
「っちめんどくさい、クララ早く捕まえなさい」
「え?はい!」
クララは難なくそのヘビを捕まえる。
「ガルム、剣出してそのヘビの血をクララに飲ませなさい」
「え?!」
アストレアの声に驚いていると「早く!」と急かされたので心で謝りながら体を切り血を滴らせる。
「クララ1口でいいからその血を体に入れなさい」
「え?え?」
視線を3者に移動させながら困惑する。
「早く、無理やり飲ませるわよ?」
その声に観念したのか恐る恐る指ですくい舐め飲み込む。
「次はあなたの血をそのヘビに飲ませなさい、ガルムそのヘビの口を開けなさい」
「や、やめろ!人間などと契約などしたくない!」
アストレアに従いヘビの口を無理やり開けさせる。
クララは拳の血を絞り出すように押し出してヘビに飲ませてた瞬間、
腹の部分に模様が浮かび上がる。
「クララそのヘビにあなたの命令に従うように命令しなさい」
「え?はい、もう暴れちゃだめだからね?」
当のヘビは嫌々頷いていた。
アストレアが杖を横に振ると土でできた壁は地面へと戻っていく。
「色々な説明は後、今はこちらが状況を聞くわ」
僕の方を見てため息をつくアストレア。
今回も僕のせいなの?と心で思いつつ村の人たちに手を振り無事をアピールするのだった。




