ガルム君の5日目(日常)⑤
畑を抜け、草原を進む。
前ではヘンリーとクララが早歩きで進んでいる。
僕とラインは後ろを並んで歩いていた。
「え!?アストレアさんに魔法を教えてもらうんですか!?」
ラインが僕を見る。
「ん?そうだけどなんでそんなに驚いてるん?」
「僕が何度も魔法を教わりたいと言っても嫌だしか言われたことなくて…」
なるほど、あいつなら断りそうだもんな。
話を聞くと、トーマスさんからもお願いをしたらしいが断られたらしい。
毎度の如く理由は分からないと言う。
「お願い!僕も一緒に学べるように説得してくれませんか!?」
うーん正直に言うと難しいのではないかと思う。
アストレアと過ごしてきて思うが、あいつは心で答えを決めている人間だ。
断る理由があるのだろう。
……ただ面倒くさいだけの可能性が高そうだが。
ラインを見る。
とても真剣な表情をしていた。
「どうしてそこまで必死になって魔法を覚えたいんだ?」
「それは…」
ラインの視線の先にいるヘンリーとクララを見て
地面に視線を移す。
「クララにかっこいい自分を見せたい…か?」
「な、なんで分かったの?!」
ラインとヘンリーがクララを好きなのは見ていれば分かる。
いつも張り合っているからな。
ヘンリーは運動が得意だ。
その姿を見てラインは焦っているのだろう。
自分には何もない。
そう思ってしまう瞬間がある。
……その気持ちは僕にも分かる。
置いて行かれるような錯覚。
あれはきついからな…。
「やっぱりこんな不純な理由じゃだめだよね……」
「分かった!明日のそうだな…13時にアストレアの家に来い!」
「いいの?アストレアさんに確認も取らなくて」
ラインが不安そうな顔で聞いてくる。
「1人教えるのも2人教えるのも大差なんてないだろ?ただし!何があいつの機嫌を損ねるか分からないから基本黙って聞いてること!」
「う、うん!分かった!ありがとう!」
ラインの大声に前を歩いていた2人が振り返る。
「何の話してんの?」
「どうかしたの?」
2人の問いに僕は首を振り沈黙で返す。
こいつのクララへの想いと、ライバルであるヘンリーに教えるのは嫌だと感じたからだ。
「明日ガルムさんと一緒にアストレアさんに魔法を教わる事になったんだ!!」
……こいつ、僕の気遣いを一瞬でぶち壊しやがった。
そんなことを言ったら!
「お!じゃあ俺も一緒に学ぼうかな!ラインがいいなら俺もいいんだよな?」
「クララも教えてもらう!手から水出したい!ピュ~」
ヘンリーは両手を頭の後ろで組み、歯を見せて笑う。
クララは両手を前に突き出し
「ピュ~、ピュ~」と水を出す真似をしている。
そして…絶望した顔で僕の方を見るライン。
「アホかお前は」
言葉と共にラインの頭に軽めのチョップを繰り出す。
「アストレアの奴はうるさいの嫌いだからな?断られても文句は言うなよ?」
ラインに追い打ちをかけ見えて来た井戸へと視線を注ぐ。
「そんな~」
ラインの情けない声を背に周りを確認する。
草原の真ん中に井戸がぽつんと立っていた。
風に揺れる草の中で、そこだけ時間が止まっているみたいだ。
村の水は井戸か川から汲む。
だが村人がここへ来ることはほとんどない。
ほんの少しだけ、胸の奥がざわついた。
……まぁ気のせいだろう。




