ガルム君の5日目(日常)③
アストレアの夢を聞いて沈黙している僕を気遣ってくれたのか知らないが、アストレアが魔法の座学は明日にするか聞いてきたので、僕は迷わずに頷く。
アストレアの夢は僕にとって受け入れがたく、理解し難く、何よりもアストレアに死んで欲しくないと心から思う僕にとってはショックがでかすぎる。
僕はアストレアといるのが辛くなり外へと逃げるよう飛び出す。
◇ ◇ ◇
日課となっている鍛錬をしにアルフレッド家に向かったのだが朝日が顔を出しても一向に出てくる気配がなく、扉をノックしようとした時に中からヘンリーが出てきて、申し訳なさそうな顔をして事情を説明してくれた。
何でもウィリアムさんが風邪を引いたらしく今日は部屋でゆっくりするとの事だ、昨日の反省の意味を込めて滝に打たれて反省までしたらしく確実にそれが原因だろうとヘンリーが言っていた。
結果僕とヘンリーの2人で鍛錬するという事になり遊びのような鍛錬になってしまった。
「なぁガルムはさ、ずっとこの村にいるのか?」
日課をこなし水浴びをした後の村への帰り道にヘンリーからそんな質問を受ける。
「どうしたんだ急に?まだ先の事は考えてないかな~、アストレアから教わることもまだまだあるからさ、それが終わったら街とかに行きたいって思いはあるかな」
僕が答え終わりヘンリーの方に顔を向けるのだが、ヘンリーは下を向いており表情は読み取れなかった。
「いや、俺たちの村ってさ王国から逃げてきた人たちで作られてるのは知ってるよな?」
ヘンリーの問に頷きで返す。ヘンリーは何を言いたいのだろうか?
「俺はさ王国にも行きたいし、他の国にも行ってみたいんだ!だけどそれを父ちゃんや母ちゃんに言ったら反対されそうで言えなくてさ…だからガルムが外に行くって言うんだったら俺も一緒に行けないかなって考えたりしてて、俺1人じゃ無理でもさ誰かと一緒なら許してくれそうじゃん?!」
必死なヘンリーに驚きつつも僕にもこいつの言う事は痛いほどわかる。
立場は違えど僕も外の世界を見ることに憧れていた1人だ、今こうして外に出てモース村に過ごせてるだけで満足しているが、生まれた時からずっとこの村で過ごしてきたヘンリーにとってはここは檻のようなものなのかもしれない。
1人で外に行くのが不安という気持ちもあるのだろう、それも分かる、今言ったことがヘンリーにとっての夢何だろうか?
アストレアに言われたからか他の人がどんな夢を持っているのか気になってきた。
「外の世界を見ることがヘンリーにとっての夢なのか?」
僕の肯定でも否定でもないそんな言葉に僕の顔を見て唖然とした顔を見せる。
「いや、夢ってほどたいそうなものじゃないよ?ただ憧れみたいな感じかな?」
そうだよな、モース村以外の国を見たいのが夢と言われたら僕も少し首を傾げてしまったかもしれない。
「ならヘンリーに夢はあるの?」
僕のその言葉待ってましたと言わんばかりの得意顔を見せてくる。
「俺の名前を知らない人がいないくらいに強くなることだ!」
ヘンリーらしいと言えばらしいな、けど僕にはヘンリーが眩しくて輝いて見え、思わず微笑んでしまう。
「なんで笑ってるんだよ!」
ヘンリーからの非難の声にすかさず弁論する。
「悪い悪い馬鹿にしたわけじゃないよ、すげー夢だなって思って思わず笑っちゃっただけだよ、…いい夢だよそれは」
先ほどまでムッとしていたヘンリーの顔が驚きに変わる。
「無理とか不可能だとか言わないの?」
何を言ってるんだこいつは?
「お前自身がそれを目指すんだろ?なんでそれを僕が否定するんだよ?僕は純粋に応援するだけだぞ?」
「そっか…そうだよな……、へへガルムのくせにいい事言うじゃん!見直しちゃったよ」
「それは光栄です」
ヘンリーからのお褒めの言葉を棒読みで返してから言うべきことを最後に言う。
「ヘンリーお前からのさっきの質問の答えだ、僕はまだこの村ですることがあるから今すぐ他の国に行く事はない!だけど…そうだなアストレアに許可を出してもらえたなら僕が外に行くときに一緒に行こう!クララやラインも誘ってな!」
そう言ってヘンリーの頭を撫で笑いかける。
しばらく下を向いて黙っていたヘンリーが突然走り出し「競争な!!」と言って駆け出す、僕は微笑みつつその後を追いかける。
ヘンリーに言った僕の言葉が自分自身に届く。
そうだよな…誰かがどうこうなんてのは関係ないんだ、自分の望みを我儘に、自分勝手に全部包み込んでやれば、それが夢なんだ。
◇ ◇ ◇
ヘンリーと別れ僕は勢い強く自宅の玄関を開ける。
「うるさい」
そんな厳しい事を言うアストレアに構わずアストレアに近づきアストレアが座っている向かいのテーブルに手を置き真っすぐにアストレアの目を見て宣言する。
「アストレア!僕の夢が決まったぞ!」
「ずいぶん早かったわね?それで?教えてくれるんでしょ?」
その言葉に頷き一呼吸置く。
「僕の大切な人が幸せに生きられるそんな世界を作る!!それには当然アストレアお前も入ってるからな!アストレアの夢が殺されることだとしても、それは僕が絶対に許さない!お前を殺そうとするやつがいるなら代わりに僕がそいつを殺す!!僕の我儘でお前を生かすから!」
僕の満面の笑顔とアストレアの困ったような顔は対照的だなと思った、だけどこれが僕の本心であり夢だ、誰かがそれを邪魔するのなら許さない!そんな決意と共にアストレアを見続ける。
「あたしを殺せるような奴にあなたが勝てるわけないじゃない…」
「簡単な話だろ?僕がアストレアより強くなって、その殺そうとするやつよりも強くなればいいだけの話だろ!?」
「無理ね、あたしに勝つって言うのがそもそも無理な話よ」
「それを決めるのはお前じゃない、僕がそうなる事を諦めなければ絶対にアストレアより強くなるよ」
「そう…なら楽しみにしているわその時が来るのをね、あたしも自分の夢を諦めるつもりはない、その時が来たら頑張りなさいよガルム?」
アストレアの態度はいつも通り何を考えているか分からないけど、ほんの少しだけ認められたようなそんな錯覚を覚える。
僕のこの夢は僕が強くならないと話にならない、力だけでなく様々な力が必要になってくる、どんなに辛く苦しい道だとしても夢を決めた今、すごく満たされていくのを感じる、未来がどうなってるかなんてのは分からないけど一歩づつ頑張っていこう、自分を信じてがむしゃらに。
アストレアに言うべきことは言った!僕は胸を張ってまた玄関えと向かうそんな僕の背中にアストレアが暖かい言葉を投げかけてくれた。
「お願いだから問題は起こさないでよ?お願いだから」
母親が子供に注意するみたいなニュアンスに思うところはあるが言い返す事も出来ないので黙って外へと繰り出すのだった。
◇ ◇ ◇
「あなたの夢の結末に付き合うのも、悪くないかもしれないわね。」




