ガルム君の5日目(日常)②
アストレアから基礎的な文字の習得は今日で終わりにしていいとの評価を受けたので、明日からは1人で細かい文字の習得に励むこととなった、それと同時に今日から魔法の座学に入ってから実技で教えていくとも言われた。
この世界の教えるべき常識も今日で終わりと言われ細かい部分に関してはその都度教えるという。
今日教わるのは魔族の事、そして15年前に起こった魔族との戦争の事を教えると言われて息を呑む。
僕にとって聞きたくもあり、聞きたくもない事だ、僕が今まで受けてきた扱いを考えれば魔族の僕にとってはいい話ではないだろう、だけどここで目を逸らしたところで魔族である事実を変えることなど出来はしない、いつもより真剣にアストレアと向き合う。
「まず最初に魔族と呼ばれるものの特徴から説明するわ、①魔族は生まれた時から魔力を持って生まれてくることが多い事②心体的特徴は様々あれど目が特徴的な魔族が多い事、成長することで見た目が変わるケースも多いとも聞くわ③戦う事を好んでおり魔族同士でも殺し合いを良くする事。最後、これが魔族を恐れ憎しむ者が多い理由…」
そこで言葉を区切り僕を見つめるその瞳からは何も読み解けない。
「1人1人が強くそして…意味もなく生きてる者を殺す、それが皆が魔族を忌み嫌う理由よ。彼らは強者を求めて定期的にこの地にやってくる、それが15年前の出来事」
人だと思っていた時間が長いからなのか、アストレアが言う理由を聞いても実感が湧かない、というよりも自分に当てはまると思う事が2つ目の瞳の特徴くらいしか思い当たらないからだ。
アストレアも僕がピンときていないことを理解しているのか話を続けてくれる。
「1つずつ説明するわ、1つ目の生まれた時から魔力を持つって話だけど少し違う、魔力がない魔族も生まれはするけど、その場合殺されるか捨てられるかの2択しかないから認識されずらいだけ」
「えっ?!って言う事はそれが僕ってことなの?」
アストレアのその言葉は僕に親がいない理由に繋がり、慌てて聞いたのだが当のアストレアは首を横に振っている。
「あなたには当てはまらない、あなたには魔力があるからね、そもそも魔力がなければ魔法を教えようともしてないしね」
「そっか…魔力量とか分かるの?」
「魔術を極めれば極めるほど分かってくるようになるものよ、直感みたいなものね」
そこら辺のことは魔法の座学の時に聞けばよいと考え先を促す。
「2番目に関しては私が読んだ文献にそう書いてあった事をそのまま伝えてるだけだけどね、貴方もそうなる可能性は十分にあるわ」
一度僕の体を見てから恐る恐る確認する。
「因みにその見た目が変わるというのはどの程度のものなのでしょう?」
「角が生えたり、牙が長くなったり、身体に模様が浮かんだり、それはそうなった時に嘆きなさい」
アストレアが言った変化ならまだ良いのだが、僕の原型を留めない変化にはならないでほしい…。
「3番目は魔族が身体的にも精神的にも強靭で戦いに適してるということ、4番目に言った事は言葉の通りよ、次に15年前の戦争について話すけどここまでで質問はある?」
多分アストレアにも答えは分からない質問だと思う、僕自身その答えを知るのが怖い。
「僕は…なんて言えば良いんだろ、魔族だけど人間の心?感性って言えばいいのかな…それを持ってるって思ってるんだけどさ、そこはアストレアから見てどう思う?」
「そうね、私も貴方の外見以外は人間と変わらないと思ってるわ」
その言葉に安心しつつ言葉を続ける。
「僕がさ…大人になって成長した時にその…」
「魔族の残虐性が目覚める可能性が知りたいと?」
僕が言い切る前にアストレアが僕の気になってる事を言い当てる。
「可能性としてはある、けれど正直な話分からない。あたしの意見を言うのであればその可能性は高いとは思ってるわ」
「理由を聞いても?」
「魔族は弱い者は殺される事が多い、結果生き残るのは強者だけという事、貴方が生まれてきてる時点でその血筋を受け継いでると考えるのが普通よね?」
僕は黙って頷く。
「子は親に似る部分が多い、それはどの種族であれ違いはない、言いたいことは分かるわよね?」
「僕は危険な存在ってことだね、少なくとも安全とは言えない…か」
「貴方が暴走したときはあたしが殺してあげるから安心して?」
「そこは嘘でも暴走を止めると言ってください!」
「そうね、余裕があれば考えておくわ」
本気とも嘘とも判断がつかない僕はただただ恐怖に慄くのだった。
そんな僕に気にもとめずに次の話へと移り変わる。
「それじゃあ15年前の話ね、魔族が襲来したのは3月頃、魔族が来たときは周辺国と共闘するという確約があってね、海を飛んで来た魔族の群れを確認してすぐに連合を組んで戦いに挑んだ、その飛来してきた魔族の数何体だと思う?」
真剣に話を聞いていたら突然の質問に驚きつつ。
「5万くらい?」
何の情報もないためそれっぽい数字を言ったが当たりはしないだろう。
「桁が1つ違うだけね、約5000体よ、それで何人死んだと思う?」
「じゃあ5万くらい?」
「20万人よ」
「5000体で20十万も殺したの?!」
「戦う能力の無い平民も含んだ数字だからそれだけで強さを判断できるわけではないけれどね」
「それにすべての国が協力的だったわけじゃない、積極的に戦ったのはエルフの国、コンストロ、オーガストくらいよ。南から来るのも相まってね、王国は他の国が戦いで疲弊してくれた方が都合がいいと考えたんでしょうね……国民まで見捨てると判断した王には虫唾が走ったわ」
アストレアの静かな怒りに困惑しつつも気になることを言っていたので聞いてみる。
「アストレアってその戦争に参加してたの?」
話の口ぶりからして経験してきたように話すので確信めいたものを抱いているが、自分の事を話したがらないアストレアがそんなミスをするのだろうかと言う疑問もある。
「はぁ、そうねあたしもその戦争に参加していたわ、王の命令を無視して最前線でね」
アストレアが教えてくれたことにも驚いてるし、最前線にいて生き残ってるのも驚いてるんですが!
最初は頑なに自分の事話さなかったのになんでだ?と思いつつ嬉しくもある。それにしても…
「アストレアってどれくらい強いの?」
「アバウトすぎて答えることも出来ないし、教えるつもりもない、自分が思った通りに評価すればいいんじゃない?」
僕のアストレアの評価は化け物なのでそのままでいいという事か。
「魔族の事も戦争の事も何となくは理解した!正直自分の目で見てない事だからあまり実感もわかないんだけどね、だけど魔族が嫌われる理由はよく分かる…」
魔族である僕にこの王国で他の場所で生きていくことが出来るのだろうか?そんな不安に押しつぶされる。
「ガルム」
不意に名前を呼ばれアストレアと向き合う、いつも通りの何を考えてるか分からない顔で。
「あなたの夢は何?」
「夢?」
予想外の言葉に首を傾げてしまう。
夢?僕の?そんな事考えたこともない、今までは生きていくので精一杯で、坑道を抜けだしてからもフリージアを国に帰すという目標はあったがそれは夢ではないしと頭を悩ませる。
「あなたの望む未来の話をしているの、あなたが大人になって何を掴み取りたいのか、今それが分からなくてもいい、だけどしっかりと考えてそれをあたしに教えて」
僕が望む未来か…大切な人が幸せに生きられるそんな世界を作りたいな、自分勝手な夢だとは思うけどそれでもすぐに頭に思いついたのがこれなのだからしょうがない。
自分の夢をアストレアに言うのが気恥ずかしくて「まだ分かんないと」と返す。
「逆に聞くけどアストレアの夢は何なの?」
アストレアの事だ、教えないとか言うに決まってる、そうすれば僕もアストレアにじゃあ僕も言わないと言えるからな!
「あたしを殺せる人を探す事、それがあたしの夢」
「え?」
言葉の意味を理解するまで、数秒かかった。
「……冗談、だよな?」
アストレアは少しだけ首を傾げる。
「どうしてそう思うの?」
「夢ってのは普通、叶えたい事だろ」
すると彼女はほんの少しだけ考えて。
「そうよ」
静かな声で続ける。
「だから叶えてほしいの、あたしを殺せる誰かに」
その瞬間、胸の奥がざわついた。
なぁアストレア、それでお前は幸せなのか?
それは僕が思い描く夢とは、あまりにもかけ離れていた。
大切な人が幸せに生きられる世界。
さっき頭に浮かんだばかりの僕の夢は、そんな当たり前の願いだった。
そこには当然のようにアストレアもいる。
なのに目の前の少女は――
自分の終わりを願っている。
どうしてそんな顔で、それを夢だなんて言えるんだ。
◇ ◇ ◇




