それぞれの思惑
ガルムとアストレアが村に向かう背中を二人組の女性が森の中から見つめる。
その装いは北方に国を構えるアマツ信仰国のそれだ。
「志乃ちゃんどうするのあれ?このまま見送るの!?」
「どうするもこうするも化け物と一緒にいる所に行くなんて自殺行為でしょ」
「じゃあ依頼は?!」
「諦めるしかないでしょ?」
漆黒の長髪を風にたなびかせる剣士がもう片方にそう言うが、オレンジ色の髪を後ろにお団子状で括っているくノ一の方は諦めきれないのか地団駄を踏む。
「自殺をしたいならご勝手にどうぞ」
「あたしたち2人でも無理なの?」
「無理でしょうね、8人揃ってたとしても正直わからない…」
「そんな奴いる?!化け物中の化け物じゃん」
「だからそう言ってるでしょ、私たち以上の可能性が高いのよ、化け物の私たちよりもね…」
そう言って腰に差す柄の部分にそっと手を乗せる。
「それって自分で言うこと〜?」
「あら?自己肯定感が低いのね?貴方は十分強いわよ」
「ありゃ〜私らの中の最強さんに褒められて喜んでいいやら悲しんでいいやら」
「素直に褒めてるんだから受け取りなさいよ」
「ありがと親方!」
「次その呼び方したら首飛ばすからね?」
そう言って満面の笑みを浮かべる志乃にイオリは何度も頷く。
「まじめな話どうなの?私たちが本気でやって勝てないって思ってる?」
「30〜40%…ってとこかな」
「8人がかりでそれってヤバヤバだ~」
緊張感を感じさせない事を言ういおりだがその目は真剣さを帯びている、私らの生き方だと誰がいつ敵になるかが分からないからこそ、どうやれば勝てるのかを考えているのだろう。
「隙ができるまで待って攫うか殺すとかもできない?」
導き出した答えがそれなのかそんな事を聞いてくるイオリに答えることなく、私は遠くを歩く小柄の魔女の伝説が頭をよぎる。
「隙ねぇ…魔力がある奴全員感知できてんじゃない?」
「そんな事できるの?でもあたしは魔力少ないよ?」
「あくまで私の予想よ予想、けどあいつのした事は語り継がれるほど有名だしね、私らはまだ子供だったからホントか知らないけどね」
「魔滅の魔女ってやつでしょ?それが魔族と一緒にいるんだから意味不明だよね」
「ホントにね」
「あ~あ無報酬で帰ったらあいつらにからかわれるなぁ〜」
「そうね、ほんとにそれだけはしゃく」
「良くも悪くも私らは雇われだからね~責任を負わなくて良いのは気楽で良いね!」
その言葉を最後に2人は東に向かい街の方角へと歩を進める。
(魔女の方はともかく、魔族がどれほどの強さなのかには興味があるな、だけど見た感じは弱い、成長すれば強くなるのだろうか?)
そんな事を志乃は考えて笑顔を見せる。
「楽しみだな」
イオリのうへぇと言う顔を無視して私たちは速度を速め帰路を進んでいった。
◇ ◇ ◇
「おい、王国軍の数はどれくらいだ?」
「ベルシアの街とエルドランの街から5千ずつの計1万とのことです」
レオは仲間の報告に顔をしかめる。
「奴隷が逃げ出しただけで大袈裟なことだな、どんだけ暇なんだよ」
そんな俺のボヤキに俺の片腕のラザールが答える。
「まぁ坑道の完成を1日でも早くしたい王国にしてみたらムキになるのはしょうがないことだとも思うけどな。俺たちの目的は戦うことじゃないが…逃げ切れるのか?」
「なに弱気なこと言ってんのよ!お頭がいない今私たちがしっかりしないといけないんだからね?!」
その問いに答えたのテッサだった、俺たち3人は昔からの腐れ縁でいつも一緒に色々な事をしてきた、こいつらとならどんな困難でも乗り越えられる、そんな確信にも近い錯覚を覚えつつテッサに言葉を返す。
「わーってるよ、王国の奴らと鉢合わせするのがいつになるか分からないからな、南のコンストロの国には関所と壁が合って俺たち盗賊じゃあ通れねぇ、そして俺たちがいた坑道を囲い込むように展開して進軍してるって話だからな、交戦は避けられねぇ…」
自分で話しながら情報を整理する。
「それならよ、展開がまだ薄い今の段階で一点突破をした方がいいんじゃないか?このまま森の中で隠れてれば王国兵の範囲が狭まって密度が上がるだけじゃねえか?」
「それは私も思ったけど私たちがいる森と比べて平原が多くなるのよ?遠くからも私たちが見つかる確率は上がる、当り前に見つかれば魔法かなんかで合図を送られて私たちめがけて集まってくる。そうなれば全滅ね」
テッサのいう事に俺も賛成だが、その方法で迷う、ラザールの言う一点突破を考えてはいるが、その包囲網を抜けた後の事も考えなきゃならねぇ。皆の命を預かるからこそ軽々に判断を下すことはできない、時間が許す限り考え続ける、まだ兵隊が来るまでには時間がある。
「いっその事迷いの森に逃げ込むってのはどうだ?あそこなら王国の奴らも入ってはこないだろ?報告では今エルフともなんか揉めてるらしいじゃねぇか」
「それはダメだ、お頭からの命令でもある、エルフの森の近辺には近づくなとな」
お頭と別れる前に聞かされていたこと、ガルムをその近辺の村に置いていくから絶対に王国の奴らをそちらには来させるなと。
あいつはちゃんとエルフの嬢ちゃんを送り届けられたのかと思いを馳せるが今はそれよりも自分たちの事だと頭を切り替える。
「今思いついたことを伝える、正直1か0かの作戦だ、反対などがあれば遠慮なく言え」
その前置きの後2人に思いついたことを伝えると2人は沈黙して考えているようだ、俺の策とも言えない無謀な考えに真剣に考えてくれるだけでもありがたい。
考え込んでいたテッサが頭を上げて喋り始める。
「正直本当に賭けね、レオの作戦は生きるか死ぬかの結末しかない、それに成功率を上げるのなら囮が絶対に必要だと私は思う」
そのテッサの言葉に俺は考え込み、ラザールは慌てて食って掛かる。
「お、おい!囮が必要なのは分かるがもっと別の方法で音とかを鳴らせば注意は引くこともできるんじゃないか?」
「確かにラザールのいう事は分かるわ、けどそれだとすぐに気づかれる…足止めしてくれなければこの作戦は上手くは行かない…」
最後の方の言葉が弱くなるテッサ、それはそうだろう、囮役には死んでくれと言ってるようなものだのだから。
「テッサはその囮がいれば成功率は高いと思うんだな?」
俺の言葉にテッサは頷き、ラザールは心配そうな顔を俺に向ける。
囮役に任命されるのを恐れてじゃない、その囮役を俺が選ぶ事を憂いてくれているのだ、こいつは信じられないくらいのお人よしだからな。
「なら俺が言った作戦で決まりだ!誰がその囮になるかは考えてからその者に告げる、その決定にお前らでも異論は認めない!分かったな?」
2人は同時に頷きその場を後にする。ガルムに言った自分の言葉が不意に蘇る「それは逃げだろうが」と、俺が言った言葉だ、今俺が残って囮を引き受けると言えば楽だろう、だが俺がその選択を取れば逃げになる。そして誰を残すかの選定はもうすでに決まっている。
「クソ!…上に立つってのは想像以上につれぇな…」
月狼団の頭としてこの先の戦いに決意を向ける。
◇ ◇ ◇
獣人国~ グラジオラスの王城の玉座には獅子の顔と屈強な体を漆黒の鎧に身を包む王と、王に跪き首を垂れるものがいる。
「レオバルト様、エルフの女王より使者が参りました。戦の件は、水に流していただきたいとの通達でございます。」
「そうか…エルフが味方になれば楽だったのだがな、聞いた話では我らの国へのトンネルでも奴隷たちが脱走したらしいではないか」
「ハッ!そのように聞いております、もし建設が再開された時の完成期間は早くて3年か10年以内にはとの試算でございます」
「今すぐにでも動ける準備はできていたんだがな…」
「エルフ側に姦計を施して王国との火種を作りましょうか?」
それを聞き王は首を振る。
「いや、やめておこう、今回のように偶発的で起こったことならいいが、こちらが悪だくみしてるとバレればその方が厄介だからな」
獣人国とエルフの国には王国と違い隔てる障害がない、そのため直接進行などになればその方が面倒だと考えて、その発言を棄却したが…フム、火種か。
「将軍を呼べ!」
「直ちに!」
そう言って走り去る鹿の顔をした者を見送る。部屋に1人残る王の独り言が部屋に響く。
「面白い情報もあるしな、戦争に向けて少しでも準備しておかなければな」
王国との戦争…簡単なものではないのは理解してる、王国には傑物が多くおり、金もあり国土も広い。
だが、我らとて負けるとは思っていない、勝てる見込みがなければ何がなんでも王国に敵対などしないだろう。我ら獣人の恐ろしさはその時に身をもって見せつけてやる。
六征か…、あやつらがいなければ早くに王国を潰せるというのに、その想いとともに歯をむき出し食いしばる王は獰猛に笑うのだった。




