母娘②
「今日限りで私はフリージア様のお傍仕えを辞めさせていただきます」
「え?」
長い沈黙。
「じょ!「冗談などではありません」
私の言葉に被せてそんなことを言うグレタさん。
「な、なんで!?」
私は動揺で目が泳ぐ、奴隷として攫われた5か月よりも長い時間を一緒に過ごしてきた人の突然のその言葉、分かったなど言えるはずもない。
「さ!さっきの兵士の事なら気にしないで!私がお母様に言っておくから!!そ、それとも私があの時わがまま言ったから!?それが原因で辞めさせられちゃうって事?それも私が何とかするか…」
急にグレタさんに抱きしめられ言葉が止まる
「違うのですお嬢様」
私はグレタさんの肩口の服を力強く掴み、声が震える。
「じゃぁ…何でなの?私の事嫌いになっちゃったから?」
「違います…私は安心したんです」
グレタさんの言う言葉の意味が分からない、話がかみ合わない、私が聞きたいのはそんな事じゃない!
「お嬢様が先ほど私に怒鳴ったことに私は安心したんです」
意味が分からない、何が言いたいのか分からない、そんな事どうでもいい、やめてほしくない離れてほしくない。
首を振りその言葉を振り払う。
「わかんない!いやだ…私を1人にしないでよぉ…」
「あなたは1人じゃありません大勢の者が貴方を見守っております」
ちがう!私が言ってるのはそんな表面的な事じゃない。
「グレタさん以外誰も私の事なんて見てない!!皆王女としての私を見る!そうじゃなくて本当の私を見てくれていたのはあなただけ!!」
グレタさんは抱擁を解き、私の両肩を掴んで距離を取った。
「それが王女として生まれた、貴方様の宿命なのです」
その言葉に驚愕する。
グレタさんの真剣な顔を見つめる。
なんでそんなことを言うの?その言葉は本当の私を押し殺せと言われてるように感じた。
「お嬢様、私がフリージア様の傍仕えを辞めるという話は私が考え抜いて女王様に思いを伝え了解を得たことです。誰かではなく、この私がその選択を選んだのです」
私は黙って、いや喋ることが出来ず耳を傾ける。
「お嬢様と一緒に過ごし見守り続けてきました、ですがそれがお嬢様の成長の妨げになってしまったのではないかと私は考えてしまったのです」
その言葉を聞き反射的に声が出る。
「それは違う!絶対に違う!あなたがいたから私は…」
グレタさんは静かに首を振る。
「お嬢様が自分を顧みずにあの少年を守った事を聞きました、そして私に怒鳴り自分の意思を通した事、そんな事は私が知っていた頃のお嬢様では想像も出来ない事です、そこでやっと私は確信をもつことが出来ました。」
お嬢様なら大丈夫だと。私の陰に隠れてた頃のお嬢様はもういないのだと。
それは、ガルム君が私にとって大事な人だから、それ以外の理由なんてない。
「あなたは強くなられたのです、それは私などがいなくても歩いて行けるほどに、それはきっとお嬢様ご自身が一番よくわかるはずです」
私は沈黙で答える。
ガルム君がここを去り、そしてグレタさんも私の傍に居ない未来、暗闇の中の私は膝を抱えて泣いている、そんな情景が浮かぶ。それを想像するだけで耐えられそうになかった。
「私は…強くなんかない、それを想像するだけで私…は…」不意に暗闇の中で膝を抱え泣いている私の前に少年の背中が見えた。彼の目前には炎を広がっていく、彼はその道を迷わず進んでいくと不意にこちらを振り返りいつもの笑顔でこちらに手を差し出してくる光景。
彼のこれからの未来を想う、それはきっと私が想像できないほどの道になる。
私が見たその光景は暗示のようにも思えた。
もう一度暗闇の中の私を見る、膝を抱え下を向いて泣いてる私、
そして少年は進んでいく、見えない何かが少年の肌を切り裂き炎で肌が焼けこげる、それでも歩を緩めることなく迷うことなく前に進んでいくそんな彼の姿が。
泣いてる私を見る、もし私が前を向いて彼の隣を歩いていけば炎をから身を守ることが出来る、負った傷を癒すことが出来る。
王女として生まれた私が彼の力になることが出来るかもしれない。
エルフの国の未来や、国民の未来、そんなものは今のあたしにはよく分からない、
だけど絶望を歩くかもしれない彼の助けになれるのなら私はその道を歩きたい。
暗闇の中うつむいて泣いてる私とその隣に立ってる2人の私がいる、そしてさっきと同じようにこちらを振り返り手を差し伸べる少年。
うつむいてる私はそれに気づかない、でも!前を向いてる私ならそれに気づくことが出来る
私は前に進み彼の手を取り、一緒に炎の中へ歩いていく。
私は瞼を強く閉じ、そして迷いのない瞳でグレタさんを見る。この人を安心させるために、ガルム君にかっこ悪い自分を見せないために!
「グレタさん、ありがとう、もう私は大丈夫」
「ご立派になられましたね」
そう言って涙目で笑う彼女に私も同じ表情で返す。




