エルフ②
私の背中に乗り息を荒くしてしがみついてくる少女を横目で確認する。
すぐに休ませなきゃいけない状態なのは誰の目からも見ても明らかで、この少女を自分の子供の様に愛している私にとっても今すぐに休ませたい。
「フリージア様」
呟く声、この声とも呼べない声は後ろの少女に届いていない。
この子がいなくなった、その報告を受けた時どれほど絶望しただろう、何度泣いただろう、傍仕えの私の過ち、女王様は「あなたの献身は知っています」と言い私を不問に処してくれたが、それが余計に私を苦しめた。罰してくれれば、殺してくれればどれだけ楽だろうと思った。
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「ねぇねぇグレタさん」
私がフリージア様の髪を梳かしていると、おずおずと私に振り返り私の名前を呼ぶ。
私はそんなフリージア様に微笑返して「何でございましょう」と言う。
目の前の少女は恥ずかしそうに、椅子の上でぶら下がる足をパタパタさせながら言いにくそうにしているのを、急かすことなく待ち続ける。
この方が生まれフリージア様の傍仕えに任命されてから彼女とはほとんどの時間を一緒に過ごしてきている。
引っ込み思案で私の後ろを隠れるように歩き、知らない人に話しかけると隠れてしまうそんな少女。
その度に相手は困り、私が背中を押して挨拶するように促す、そんな日々だった。
フリージア様は我儘など言わず、文句を言わず、愚痴や不安を人前に出さない心優しいお方だ。ときどき私に弱音を話してそれを私が受け止めるそんなありふれた日常。
フリージア様はまだまだ若い、この年頃で母親と一緒に居たくない子供などいないだろう。王であった父親は先の大戦で戦死してしまい、女王様が引き継いでからはご多忙を極め、フリージア様と遊んだりすることも話をする時間さえあまりとれない。
「お母様頑張ってるね!私も頑張らなきゃ!」
よくそう言って私に笑いかけるその御姿を見るだけで私の胸が張り裂けそうになる。
1人悲しい顔をしてるのを知っている、布団を変える時に枕が濡れている事も知っている。
王女である彼女に皆敬意を払っている、それはエルフの他の子供達も同じだ、そのせいでフリージア様の周りには友達はいない、みんな遠慮してしまう、聡いフリージア様もその空気、態度を感じ取り距離を置く。
私が思考の波を泳いでいると声が聞こえ始める。
「あのね、今日は1人で森の方に行きたいんだ…」
上目遣いで私を見てくるその顔には申し訳なさを顔に浮かべる。その発言、お願いが私を困らせると分かっているからだろう。
私も心を鬼にしなければならない。
「それは…フリージア様のお願いでも承知いたしかねます」
「あぅ……あの、あのね!お母様に見せたい魔法があるの!そのためにちょっと練習してから行きたくて…それに何時も頑張ってるお母様に内緒でプレゼントを上げたいの!…それに」
ちらりと私を見て俯いてしまうフリージア様を見て言葉が出せずにいる。
我儘など言った事がないこの子のお願い、母親との時間を作りたいのだろうとも察する。
それでもここは絶対に認めることは出来ない、してはいけない願いだ、それが私の職務でもある、危険が少しでもあるのなら心を鬼にしなければならない。
しかし…フリージア様の今までが頭を駆け巡る、魔法の習得に励む姿、悲しむ表情、気丈に振る舞う姿
そして今初めての自分の為ではなく、母親の為の我儘。
うつむくその少女はまた顔を上げ、諦めないというように口を開こうとする。
その姿を見て私が先に話し出す。
「夕刻までです!いいですか?夕刻までならフリージア様のお願いを許可します!」
何かを言おうとしていた少女は私の発言を理解するのに時間がかかったのか固まってしまう。
だが理解してくるとともに段々明るさが増し笑顔に変わる。
「え?!いいの!!?やったやった!!」
椅子から飛び降りてピョンピョンジャンプするほどに喜びを表現する彼女に私の顔も笑顔に変わる。
私の腰に抱きつき何度もありがとうと言う彼女の頭を撫でる、そんな事は本来してはいけない事だが、眩しい笑顔に無意識に撫でてしまっていた。
それに驚いた表情を見せつつ、すぐにまた満面の笑みに変わった。
「何度も言いますが夕刻までですよ?それ以降は皆にバレてしまいます!そうなれば私はフリージア様のお傍仕えを解任されてしまいます!!そんなの嫌ですからね!」
それを聞き少女もそれは私も嫌だと言い、約束をしてから彼女と街の中まで一緒に行き森へとを送り出す、送り出してしまった。
さ、さーせん、じ、次回に続きます




