門出
僕は空に浮かんでいた、上を見上げれば雲が少し漂う晴れ模様、下には上の景色を一面に映した水面しかない。
下の景色が急に映像を映す、それは僕が坑道に連れてこられた場面。
僕が考えてる間もなく映像は切り替わり続ける、それは僕の今までの記憶
ふと後ろから誰かに抱きしめられるような感覚を覚え首をひねる。
誰かが僕のことを抱きしめてるのは分かるが、顔はぼやけ輪郭も光に包まれよく分からない。
前にもこんなことが有ったような気がするが思い出せない。
それでもすごく安心するその光に包まれ意識が遠くなる。
――――――――――――
意識が覚醒してゆっくりと瞼を持ち上げる、体を包み込む初めての感触に驚く。
それをはぎ取り周りを確認する、ここはどこだと思うと同時にエルフに襲われて岩を壊して気を失った事を思い出す。
バッ!
僕は急いで右腕を持ち上げる。
「え?なんで?治ってる」
あの時の痛みは鮮明に覚えてる、だが今はどういうわけか全身の痛みがなく、いつも通りの僕の体の状態に驚く。
僕はあの後どうなったんだと考えていると足元から声が脳に直接響く。
『おはようガルム、傷は全部塞がったと思うが大丈夫か?』
声の出所が分からず辺りを見回す。
「え?なんだ、どこから声が?」
『下じゃした』
そう言われ恐る恐る死角になっている寝具の下を確認すると額に八芒星がある子犬がこちらを見上げていた。
「今頭に響いてる声って君の声なの?」
『そうだぞ、驚かせてすまんな?訳があって語り掛けることが出来なくてな、先ほど許可が下りたからこうして話すことが出来たというわけだ、それから、もう治ってるとはいえ腕を嚙み切ってしまって申し訳なかった』
そう言って子犬が頭を下げる。
話せることには驚きつつも、僕の言葉が分かっていたのはすでに理解できていた為そこまでの驚きはなかった。
それよりも傷が治ってることの方が驚きだし僕が気を失った後、どうなったかの方が知りたい。フリージアは大丈夫なんだろうか…
「あれは君のせいじゃないだろ?僕が無理やり引きはがしてやったことだしさ、それよりも傷が治ってるのも気になるし、あの後僕がどうなったかの方が気になるんだけど!?教えてくれる?」
『ああ、もちろんだよ、私はそのためにこうして待っていたんだからね』
優しく微笑む顔を見つつ、僕は頷く。
そうして語られる出来事に僕は静かに耳を傾ける。
「そっか…フリージアに助けられたんだね僕は、そして君やその聖獣さん達にも…会ってお礼がしたいな…」
『そうだな、またいつか会うことが出来たら直接礼を言うとよい、私からも伝えておくさ』
その言葉に僕は頷き辺りを見回す。窓から見える光はなく今は何時なんだろうと考えを巡らしていると、僕の視線に気づいたのか子犬が教えてくれる。
『今は早朝だあれから丸1日眠っていたからな、ここは聖樹の中の空洞の中に建てられてる城だから、正面にしか光が入ってこないんだ、ここは反対側だから暗いだけさ』
なるほどと思いつつ、殺されそうになったエルフの本拠地と思うだけで身震いがする。
『安心しろ、女王は説得して手を出さないことで我々とも話が付いている、お前は絶対安全だ』
僕は胸をなでおろし子犬の顔を見つめ額の八芒星を見つめる。
「それを聞けて安心だよ君が言うなら信じられる、…そう言えば君もその聖獣さんって事なんだよね?名前ってなんていうの?」
『私の名前は玉犬と言うがあまり好きじゃないんだ、だから<セイ>と呼んでくれないか?』
「セイかいい名前だね!!あっ!セイ様の方がいいのか!?偉い神様なんだもんね?」
親しみやすくて忘れてたが神様なら失礼な態度はダメだよなと思い至り訂正しようとしたのだが首を振りそれを否定している。
『いや、セイと呼んで欲しい急に畏まられる方が気持ち悪いからな、今まで通りの態度でいてくれ』
「うん!分かった今まで通りにするよ、それでフリージアは今どこにいるの?」
『あの子なら自分の部屋にいるんじゃないか?昨日の夕方近くに目を覚まして急いでお前の部屋に来て
傍に居ると言っておったが、大事な話があるからと言う理由で戻って貰った』
すまんなと言うセイの言葉を聞きつつ、フリージアが無事なようで僕も安心する。
そして先ほどの2文に反応する。
「ん?自分の部屋って?お城に自分の部屋があるの?」
『なんだ?聞いていなかったのか?フリージアは女王の娘で王女だぞ?』
僕はそれを聞いて驚き大声を上げてします。
「ええええええええええ!!?そうなの!!」
『うるさいわ!』
耳を抑えるセイにごめんと謝るが、まだ信じられない気持ちでいっぱいだ。
『あの…っていっても分からんか、女王が王国に対して最後通牒を突きつけたのも、フリージアが攫われたからだ、エルフの奴隷は王国内にまだまだたくさんいるしな、エルフの女王はそこまで優しくない』
なるほどそういう事か、…て事はアストレアとか言う魔女はその事を知っていたって事か。
今の話はまだ頭の整理がつかないままだが、もう1つ引っかかった部分を聞いてみる。
「その話はまぁ理解できたけど、もう1つの大事な話って何?」
フリージアを送り届けて僕がするべき事は終わって、それでさよならだと思ってた僕には見当がつかない。
『あぁ大事と言うのは大袈裟に言ったが、伝えるべきことがあると言うことだ』
僕はセイから伝えられる事を頭に要点としてまとめる。
①フリージアに別れの挨拶をしたら即刻この国から立ち去って欲しい事。
②これ以降エルフの国に立ち入ることは許可をしない事。
③万が一女王に対して力を貸してほしい時があれば、その時は立ち入りを許可し、話に応じる事。
その3点をセイから告げられる、歓迎されてないと思ったが思った以上の拒絶ぶりで思わず笑ってしまう。
『これを聞けばフリージアは怒るだろうからな。すまんなガルム、お前だからと言うわけではなく、どんな奴に対してもそうなんだ、あまり気にしないでくれ』
僕は気にしてないと言い首を振る。
でも…そっか、フリージアと会うことは難しくなっちゃうんだな。
僕が落ち込んでいるとセイが近くまで来て膝の上に手を置く。
「励ましてくれてるの?」
僕は笑いながらセイの頭を撫でる。
『お前たちがお互いに会いたいと願えばいつの日か会える日も来るさ』
その言葉に僕は頷きで返し布団から抜け出して床に足を着ける。
歓迎をされていない場所に長居をするのもお互い嫌だろう。
『移動するなら私を抱き上げて運んでくれるか?この足では追いつけん』
足短いもんねと言って笑う僕の足首にセイが噛みつき僕の絶叫が城中に響くのだった。
そんなやり取りをしつつセイを抱っこしながら廊下を歩いているとセイが語り掛ける。
『ガルム私がこうして会話できることは誰にも言わないで欲しい』
「フリージアにも?」
『そうだ』
「話せるって知ったら喜ぶんじゃない?」
『だからこそだよ、大事だからこそ喋りたくないんだ』
「僕は大事じゃないんかい!」
そう言うと子犬はフッと笑いお前は特別だから良いんだと言われ黙り込む。
結局それは大事なのか?それとも大事じゃないのか?そんな事を考えモヤモヤしながら歩くのだった。
間違いじゃないよ?間違いじゃないよ?大事な事なので




