奴隷①
南側通路から奴隷区に降り立ち路地裏から周りの家を見回す。
すぐ近くにシェリとゼノスが屋根上から飛び降り急に2人が顔を顰める。
「うっ!」
「想像以上に臭いな……」
「2人は屋根上からの方がいいんじゃない?」
僕にとっては懐かしい匂いとしか感じないけど……
慣れない2人には辛いものがあるだろう。 2人が弓使いなのもあるしな。
「シェリは屋根上で俺たちの援護をしてくれ」
「………うん、分かった」
近くにあった木箱の上に乗り屋根上に上りシェリがこちらに手を振るのを確認してゼノスと向き合う。
「ゼノスはいいの?」
「ああ、多少の護身術は身に付けてるからな」
2人で頷き合い路地裏から大通りにでる。
「これは…………」
ゼノスの足が止まる。
僕は気にせず悲鳴が聞こえる方向へと足を進める。
「お、おい!助けなくて………いいのか?」
「僕がするのは魔物を追い払う事だよ。それ以上に出来る事なんてない」
地面に倒れやせ細った獣人、焦点が合わない瞳。
騒ぎが起きても動こうとしない奴隷たち。
悲痛な表情を浮かべるゼノスには申し訳ないが、
こちらを見る沢山の獣人を全員救うなど出来るはずもない。
足を止めるゼノスをに合わせて足を止める。
ゼノスみたいな人は好きだ。 だけど今ここで答えを示せないなら邪魔にしかならない。
「ゼノスが言う助けって言うのは何なの?」
「…………」
僕の問いに地面に視線を移すが答えが返ってくる事はなかった。
アストレアと会わなかったら僕は迷いなく奴隷区の獣人たちを助けたと思う。
だけど今僕がここの奴隷たちを助けてもいい結果に導くことが出来ない………。
(いつか必ず助けるから…………必ず)
「助けてぇ!!!」
その叫びは背後から聞こえた。
反射的に振り返る。
獣人の子供。
その後ろを4人の大人の獣人が刃物を持って迫っていた。
「止まれ!!」
ゼノスが弓を番える。
それに合わせて大人たちの足が止まりこちらを睨みつけてくる。
子供の獣人は後ろを振り返りこちらに顔を向け安堵の表情をしていた。
(速いな……それに)
「がぁ!」
「ガルム!何してんだ!」
ゼノスの懐に入りそうになった子供の獣人の首を掴み上げる。
ゼノスの声を無視しさらに首を締め上げる。
「やめろ!!」
ゼノスの弓矢が僕の腕を狙うのと子供の袖口から錆びた小刀が落ちるのは同時だった。
「これは………」
「…………やっぱりな」
手に持つ子供を目の前の獣人目掛けて投げ飛ばす。
「ぎゃっ!?」
子供の体を受け止めた獣人達が憎悪の籠った目でこちらを睨みつける。
「待ってくれ!俺たちは魔物から助けるためにここに来てるんだ!」
(はぁ………)
獣人達がゼノスの言葉を受けて顔を見合わせる。
「そう………だったのか。すまん、この騒ぎの原因がお前らだと思ったからつい…………。許してくれ」
「いや、分かってくれたなら――」
聞いてられないな。
「―—そんな芝居はいいよ。これ以上やるなら殺すことになるよ?」
「…………何を言ってるんだ?俺たちはここを守ろうとしただけだって」
シュ!
その音と共に屋根上からの矢が路地裏に飛んでいく。
「グアァ!!」
「シェリ!何してんだ!」
「お兄!ガルムの言う通りだよ!路地裏から吹き矢みたいなので狙われてた!」
「な!?」
ゼノスの顔から血の気が引いて行く。
「極限の環境で人は本性を現す」
「ガルム?」
「この環境を作った奴が一番の悪だ。
だけどその環境で悪の本性を見せる奴が悪くないとは…僕は思えない。」
地獄の環境でも輝く奴だけを僕は助けたい。
「…………それは違うだろ」
ゼノスが震える声で呟く。
「こんな場所で生きてたら……壊れるに決まってる」
知りもしないくせに…………。
「僕は壊れない奴だけを救うって言ってるんだよ…………」
「そんなのは間違ってる!助けを求めてる奴らを見捨てるって言ってるんだぞ!?」
「…………助け?」
ゼノスのその言葉を聞いて周りの奴隷たちが顔をあげる。
僕とゼノスの言い合いに誰も口を挟んでこない。
その理由は分からないけど………今はありがたい。
数人の奴隷たちが僕達に手を伸ばし、涙を流す。
掠れた声から聞こえてくる、その言葉を聞き。歯を軋ませる。
「なんだ?なんて言ったんだ?!」
ゼノスは聞こえなかったのか近くの獣人の近くに顔を寄せる。
【……コロ…して、ください】
「ッ!!」
ゼノスが目を見開き奴隷の顔を見つめる。
「もう行こう…………出来る事は何もないって分かったでしょ」
ゼノスの腕を掴み無理やり立たせ、歩かせる。
「仮面のお前!!」
後ろからの奴隷の声に足を止める。
「お前から見て………俺たちは壊れてるのか?」
瘦せ細ってない5人を振り返る。
「それを決めるのは…………僕じゃない」
その言葉だけ言い残し悲鳴が聞こえる方向へ小走りで走り出す。




