冒険者
◇ ◇ ◇
魔物の群れが一斉に街に向かってくる。
街壁の上で誰かが叫び、次の瞬間それが悲鳴へと変わる。
「どうするのお兄!このままここにいたらヤバいよ!?」
「だけど、ここを離れたら街の人たちが、、」
もう!どこまでお人よしなのよ!
「私達2人がいてもそんな変わらないわよ!」
「俺たちが戦う事で1人でも多く――」
「私とお兄が死んだら意味なんてない!!」
「ック!」
こうして悩んでる間にも状況は悪化していく。
門の下で残った数人の冒険者は今更になって騒ぎ散らしている。
私には、あの少年のように自分の命を投げて最前線に行く勇気はない。
「逃げるよ!早く!」
お兄が決められないなら私が引っ張る!
腕を掴み走り出すが、お兄が足を踏ん張って動くことが出来ない。
「いい加減にして!!」
「ガルムも言ってただろ?どこに逃げるつもりだ?」
「中央に行けばまだ生き残れる!ここよりはマシよ!」
歯を食いしばる兄を、私は睨み返した。
私は……死にたくない。
「そうやってまた祈るのか?あの時みたいによ」
「そ、れは………ッ!だからってここで死ぬよりマシでしょ!!」
外壁の上の冒険者が走り石段に殺到している。
止まってる私たちにぶつかる冒険者が鬱陶しい。
ドン!
焦りと恐怖、そして怒りが爆発しそうになる。
「うるせーぞてめら!!!!ギャアギャア騒ぐんじゃねぇ!」
男の一喝に声と動きが止まる。
「……筋肉もうるさい。才能のない弱者はいつもこうだろ、死ねばいいのに」
「ああん?俺は努力でのし上がってきたんだよ!才能って言葉を使うんじゃねよ!」
「……面倒くさ」
上半身裸の男と黒いマントを全身に被る女性?が外壁の縁に立つ。
「ここは俺だけでも処理できる犯罪者は反対側に行って来いよ」
「うっせぇしね、
あんたらも逃げるなら逃げなよ邪魔だからさ」
外壁の上の人間全てに言われたその言葉。
すぐには動けなかった。
「シェリ、逃げるぞ」
「え?」
その言葉と共に街壁へ飛び乗り、弓を構える兄の意図が理解できなかった。
「逃げるじゃないの?!」
お兄は顎でガルムの方を指し示した。
どういう事?
「俺はあそこが一番安全だと思う、ただそれだけだ」
その言葉を聞いて妙に納得してしまう自分がいた。
「………はぁ、絶対守ってよね!」
「当り前だろ」
私も街壁に飛び乗る。
近づいてくるトロールの顔が近い。
体が震える、でもお兄の隣なら…………………やっぱり怖いよぉ。
「泣きそうな顔すんなよ」
「そんな顔、してなぃ」
「声震えてんじゃねぇか、後ろに下がってても良いんだぞ?」
首を横に振る。
お兄だけを残すなんて出来ない。
誰もいなかった右隣に魔法使いが並ぶ。
「こ、怖ぇな」
独り言、思わず出てしまった言葉だろう。
「私達がいますよ」
その言葉にこちらを向き、引きつった笑みを見せ何度も頷く。
私も同じ顔をしていただろう。
勇気を出した冒険者に貴方は1人じゃないと伝えたかった。
逃げようとしていた冒険者が1人、また1人と街壁の上に広がっていく。
「いいぞお前ら!!努力で恐怖に打ち勝ったんだ!これでまた強くなったぞ!ガハハハ!!」
「………邪魔だってのに、もういいや。【第1冠起動】」
「はあああああああ!!飛び出せや俺の拳!!!」
空に出現する無数の剣が雨のように降り注ぎ、
上半身裸の男が正拳突きを繰り出した瞬間、
拳の先から衝撃波が走る。
お兄、この人達の近くの方が安全な気が…………。
◇ ◇ ◇




