人か魔物か①
にらみ合いは後ろからの悲鳴で中断される。
僕とミオは後ろを振り返ることなく街に向けて歩き始める。
悲鳴を合図に走り出した男たちが横を通り抜ける。
そう思ったのだが青髪の男だけは立ち止まり僕らの進路を塞いでくる。
僕を見てミオを見てまた僕を見てくる。
ミオを見て顔をしかめ、その顔のまま僕を見てくる。
「おい、その獣人奴隷じゃねぇだろ?」
「……だったらなんだよ」
「ならさっさと奴隷契約する事だな、殺されても攫われても文句言えねぇぞ?」
後ろを振り向き走り抜けていく2人の先を見る。
「ミオ、助けてやれ」
座り込む冒険者を指さした瞬間6本の尻尾が冒険者の周りに突き刺さる。
横を通り抜けた冒険者が僕らを振り返り、ヘルハウンドも僕らを見て固まる。
僕が手で払う仕草を見せた瞬間、魔物が逃げ、ミオの尻尾も戻ってくる。
「守ってやったぞ?だからどいてくれない?」
目を見開く青髪の男が怪訝な表情に変わっていく。
「俺には魔物を守った様に見えたんだがな?」
「…………助けても助けなくても文句が言いたいみたいだな?」
隣のミオが高速で何かを呟き、瞬間ミオの気配が消える。
「グア!!」
目の前の青髪が右に弾き飛ばされ地面を転がる。
「は!?」
横腹を抑え顔を上げた青髪の驚愕する声。
僕らも目の前を見るが近くには何もいない。
「風魔法が飛んできてたぞ?」
「風…魔法?いや、今のはどう考えても…」
吹き飛んだ青髪が何もない空間を茫然と見つめ、そこに青髪の仲間たちが駆け寄る。
ミオを横目で見る。
「一応手加減はしたから、一応ね」
不満と怒りを抑えるミオの頭を撫でつつ4人パーティになった冒険者の方へ足を向ける。
先ほど死んだ男に駆け寄り、白い服の女が魔法をかけていた。
「生き残りたいなら落ち着くまでここにいた方がいいよ?
魔物は街だけを目指してるみたいだしね」
指で後方を差し悔しがっている冒険者に話しかける。
魔物は一直線に街に入ろうと突撃を繰り返して、街から離れた僕らに目を向ける事はない。
ちらりとリーダらしき男がこちらを見てくるがすぐに死んだ男の方へ視線を戻す。
「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!」
僕らも離れた場所で様子見に戻ろうとした所、後ろからその声が聞こえ振り返る。
死んだ男に魔法をかけていた女が僕らを見て頭を下げてくる。
「そんな事はどうでもいいから早くコイツを治してくれよ!!」
「ごめんなさい、あの…………もう死んでいます、死んだ人を生き返らせる事は……出来ません」
「そんな言い訳はいいからさっさと生き返らせろよ!
お荷物のお前はこういう時の為にいるんだろうが!」
聞いていて不快になるやり取りに眉をひそめる。
元はと言えばリーダーのお前が招いた事態だと分かっているのかよ。
女が必死に説明を続けているが怒りだけをまき散らし聞こうとも、理解しようともしていない。
「なぁ?周りで見てるあんたらもなんか言ったら?白い服の人の言う通りじゃん」
腕を組み聞いてるだけの男と魔術師みたいな女に向けて喋るが――
「戦闘で役に立たないのは事実だし…………こういう時くらいはって思うよ」
チラチラとリーダーの顔色を伺いながら話す男。
「仲間になりたいって言ったのはこの子なんだよ?回復が出来るって言われて喜んだけどさぁ、
回復だけしかできないとは思わないじゃない?」
嫌味を含んだ言い方と見下すような瞳に白い服の女が肩を縮め下を向く。
(こんなクソみたいなパーティ抜ければいいのに)
「これは俺達の問題なんだよ!関係ないお前は引っ込んでろよ!」
先ほどの3人組が街の方へ駆けているのを確認してからリーダーみたいな奴に向き直り。
…………
こいつに何か言っても時間の無駄だな、
白い女の方へ体を向ける。
「こんな奴らといてもあんたが苦しむだけでしょ?早く抜けなよ」
「それは…………」
苦しそうな顔を見せるのとは対照的に周りの仲間?達はにやにやと笑っている。
それが余計に気持ち悪く感じる。
「そろそろ限界だよ~」
ミオが空を仰ぎながら僕に愚痴をこぼしてくる。
僕もミオと同じことを思う。
こいつらには悪意しか感じない。
仲間の死なんてこいつらは悲しんですらいない、
ただ白い服の人で憂さ晴らしをしてるようにしか感じない。
「むしろ抜けたければ抜けて欲しいくらいだぜ、
俺たちは優しさでこいつとパーティを組んでやってるんだよ」
「お金が必要だからって泣きついてきたのこの子だし」
「そうそう、使えないで有名になっちゃったメリルちゃんは1人じゃ何もできないもんね?」
下唇を噛みスカートの裾を握りしめるメリルと呼ばれた小女を見つめる。
僕には関係ない、関係ないが…………。
はぁ。
僕は優しくない奴が僕は大嫌いみたいだな。
死体に片手を向け詠唱するフリをする。
「回廊は火、焼け、ファイアボール」
【イグニス、僕の手から飛び出すようにしてあの死体を焼いてくれ】
僕の手から飛び出す火の玉を周りは目で追う事しかしないまま、
死体を炎が包み込む。
冒険者の驚きが怒りに変わる前にメリルと呼ばれた少女に言葉を残す。
「君を理解してくれる人は必ずいるよ、必ずね」
それだけ残しその場から離れる。
彼女の事を知らない中で伝えたかった唯一の言葉を残す。
「斬りかかって来なかったね?」
「ミオが恐かったんじゃないか?」
「残念、ボコボコにしたかったのに」
「ハハ」
乾いた笑いで返し、街の入り口を見つめ続ける。
冒険者が魔物を押し返し入り口の波が弱まるのを見つめーー
「走るぞミオ、毛玉になってくれ」
「うん!危なくなったら空に放り投げてね」
「分かった、危ない時はそうする」
ミオが丸まりそれを手に抱え込む。
「今魔法使ってるからね!大きい音は出さないでね?」
「分かった!ありがとう」
門はまだ開いていたが、走るスピードを上げていく。




